みなさんはSpotify(スポティファイと読む)というアプリを知っているだろうか?
今、海外で人気の音楽アプリで、浅野は見事にどハマりしている。
どのようなアプリなのか、色々掘り下げて紹介しよう。
海外にいることの利点の一つに、日本にまだ入ってきていないものを体験出来るというのがある。
例えばコカ・コーラ社の新商品コカ・コーラ・ライフ
日本は、人口が1億3000万人と多く、経済もGDP世界第3位という大きなものなので、日本の市場はビジネス的にはかなり重要で無視は出来ない。なので、コカ・コーラ・ライフのように、多少の時差はあれど、だいたいの商品は日本に入ってくる。しかし、いくつかの分野では日本はかなり独特で、企業が参入を渋る場合がある。そういうものをどんどん見つけて、端から体験していき、日本に合うかどうかを考えると楽しいのではないかと考えた。そしてその記念すべき第一回がSpotifyというわけだ。(コカ・コーラ・ライフは残念ながら日本にも入ってしまった)
Spotifyは、2006年にスウェーデンで作られ、2008年にサービスを開始した音楽ストリーミングサービスで、平たく言うと2000万曲以上の曲から選んで好きな曲を聞けるというもの。基本は無料だが、月額$9.99で有料会員になることもできる。
現在会員数は4000万人弱、そのうち1000万人有料会員であるという。
現在会員数は4000万人弱、そのうち1000万人有料会員であるという。
では、他の音楽配信と何が違うのか。
まず基本的に無料でありながら合法であること。音楽アプリで(イントロだけでなく)曲の全てを聞けるものは違法、またはグレーゾーンのものが多く、音楽業界はそれに手を焼いてきた。メタリカがNapstarを訴えた事は記憶に新しい。しかしSpotifyは各レコード会社と契約しているので違法ではない。その為、無料で使おうと思えば30分に1度の割合で30秒ほどのCMが流れる。言ってしまえば、それさえ我慢すれば無料で使える。ちなみに有料会員になるとCMを聞かなくてすむ。
もう一つはストリーミングサービスであること。
これまで、音楽はiTunesやレコ直、moraなどの音楽配信サイトで、お金を払ってダウンロードするのが主流であった。それとは別の手段として、出てきたのがYoutubeなどに代表されるストリーミングだ。
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色々なサービスがあるが、今現在(3/17)の日本のアプリランキングで見るとこの3位のアプリがそれにあたる。(これが先ほど言ったグレーゾーンアプリだ。) |
しかし、そのストリーミングには2つ欠点があった。
一つは時間がかかったこと。
再生ボタンを押して、読み込みをはじめて、再生する為、その待ち時間がストレスになり、音楽配信などには向かないとされた。
確かに例えばアルバムを聞いていて、↑のように曲毎に少し(だとしても)待つのは煩わしい。
もう一つは音質が悪いこと。
ストリーミングなので、CDや、配信のものから劣化してしまうのは仕方のないことだ。
ところがSpotifyに、この2つのデメリットはない。
まず、待ち時間だ。このSpotifyはP2Pの技術を応用しているため、再生ボタンを押してから再生するまでが0.1~0.5秒ほどで出来てしまうので、読み込みを待つ時間がなくなった。そして音質は320kbps、即ちiTunesよりも高い。有料会員になれば更に高音質に設定できる。
まさにSpotifyは今までのストリーミングサービスの欠点を改善してみせたアプリだと言える。
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Spotifyのトップページはシンプルで見やすい。iTunesやFacebookを見本にしたそうだ。 |
マーク・ザッカーバーグはFacebookを通じ、我々人間は繋がりを求める生き物だと言う事を示した。そしてFacebook登場以降、SNSは我々の生活に欠かせないものになったが、そういうわけでSpotifyにもSNS機能がある。
例えば、Spotifyでは自分のお気に入りの曲だけを集めて、プレイリストを作れる。自分の友人はそれを見れるし、逆に友達の作ったプレイリストを見ることも可能で、気になった曲はどの曲でも瞬時に聞ける。逆も然りである。友達同士で好きな音楽の聴きあいこが手軽に出来る。その中で知らない曲があると、聞いてみたくならないだろうか?音楽のテイストの合う友人の好きな曲なので、自分も好きな可能性が高い。もし、気に入ったら、高評価のボタンを押す。するとそれが友人に伝わる。Facebookのマーク・ザッカーバーグは言った。「友人のお気に入りの曲を聴くのは楽しいだろう。しかし、もっと楽しいことがある。それはあなたのお気に入りの曲を友人も気に入ってくれたときだ。」
Spotifyではそれが出来る。しかも驚くほど簡単に。
Spotifyは、好きな音楽を聞くだけではなく、自分好みの音楽と出会う場でもあるとしての機能もある。それがRadio機能だ。自分の好きなアーティスト、もしくは曲を設定すると、それを基にアルゴリズムを使いSpotifyがあなたが好みであろう曲を選択して、どんどん流してくれる。このように自分の好きなジャンル、曲のテイストなどから自分好みであろう曲と出会えるのもSpotifyの大きな魅力だ。
ちなみに試しにOasisを選んだら、Coldplay→Arctic Monkeysと流れた。リアムやノエルが見たら間違いなく激怒するだろう。
Spotifyそのものの利便性の次は、モデルとしての優秀さを説明しよう。Spotifyは音楽配信の形を変えると言われている。なぜ?それは世界の音楽事情と深く関わっている。
今日の世界各国では、音楽はもっぱらデータで取り扱われる。CDやレコードを買う人は滅多にいない。iPhoneなどのスマートフォン端末、iPodやウォークマンなどの音楽プレーヤーに音楽を入れ、それを持ち歩くのが一般的である。
一般人のカバンの中身を公開しているサイトでもほぼ100%の人がiPodなどの音楽端末を携帯していた。
こうして、音楽のダウンロード販売は世界のスタンダードなわけだが、問題も山積みだ。イギリスBBCなどのリサーチによると全世界の全音楽ファイルのうち95%は、違法にダウンロードされたものだそうだ。この海よりも遥かに広大なネット上では音楽ファイルを無料で違法にダウンロード出来てしまうサイトがたくさんある。俗にいう海賊版だ。音質にも違いはない。というわけで、わざわざお金を払ってまで正規のダウンロードをしたがる人間はほぼいない。
インターネットと言う海はほぼ完全に海賊に支配されていた。
そこでこのSpotifyの登場だ。iTunesやレコ直やmoraなどの音楽配信サイトは、レコード会社と契約して音楽をダウンロード販売しているわけだが、それらを使っているのは前述の通りたった5%。言わば数多くの合法サービスたちで全体のたった5%の客を奪い合っているのだ。
Spotifyは便利で、合法で、しかも基本無料のサービスを提供することで、5%の奪い合いに参入するのではなく、残りの95%を囲い込みにかかった。結果、その取り組みは大成功したと言える。
スウェーデンを皮切りに、ノルウェー、イギリス、アメリカなど、Spotifyを導入した国々では違法ダウンロードの数が減少。Spotifyの前では、ウイルス感染のリスクを負いつつ、時間も容量も食う違法ダウンロードをするのが馬鹿らしくなるからだ。
こうして、Spotifyは、音楽配信の最大手のiTunesでさえ止めることの出来なかった違法ダウンロードを、確実に減らすことに成功した。それどころか95%の違法ダウンローダーたちをレコード産業の顧客に変えてしまったのだ。賞賛されてしかるべきだろう。そしてこれがSpotifyが音楽界の救世主と言われる所以だ。
では、ここまで良い物がなぜ日本に入ってこないのであろうか?
日本の市場は独特だ。なんと音楽配信全盛期の今、世界で唯一、配信よりもCDが売れている。その売り上げはなんと音楽全体の85%だ。そしてオンライン配信の音楽の売り上げは近年驚くことに減少している。世界的に日本は積極的に新しいテクノロジーを取り入れる国であると見られているのに、なぜ?
これは日本の保守的な性格が影響していると見られており、日本は大きな転換にはいつも懐疑的だ。さすがに卒業論文などはPCで作成するが、未だに就職の際の履歴書などは手書きの方がいいとされる。こちらは音楽とよく似ているが、書籍も未だに数多くの人が実際の本を、電子書籍よりも好んでいる。この辺りは保守的な性格云々よりも日本独特の収穫(コレクション)を好む文化の影響とも言えそうだ。
棚にずらっと並べてあるCDや漫画の山は、海外よりは日本でよく見られる光景だ。
このような風土があるのに加え、日本の場合、権利の関係が非常にややこしいのもある。
欧米の音楽業界では、ユニバーサル、ソニー、ワーナー、EMIの所謂4大メジャーレコードが強い影響力を持っていて、その占有率は実に70%に及ぶ。そしてその4大会社は全てSpotifyの株主だ。しかし日本でのシェアは36%。欧米ほどこれらの会社は力を出せない。言わば、欧米では身内の4人に話しをつければいいのだが、日本では、説得しなくてはいけない人が両手両足で足りないほどいると言った感じだ。加えて、前述のようにCDの方が売れている日本の音楽業界では、Spotifyなどの音楽配信サービスには敵対心、嫌悪感があるだろう。同意をもらうのは並大抵の事ではない。しかし、Spotifyが一旦日本に入ってしまえば、鎖国を解いた日本が一気に欧米化したように、Spotifyが信じられないスピードで広まるであろう事は想像に難くない。
問題は、鎖国を止める為にアメリカがしたように黒船のような圧倒的な脅威を示せればいいのだが、それは見えにくい形をしていて、日本の音楽業界の関係者の多くはその脅威に気づいていない。(その多くは気付かない"ふり"であろうが・・・。)
「勝ちに不思議の勝ちあれど、負けに不思議の負けなし。」これは日本野球界屈指の名選手であり名監督でもある野村克也氏の言葉だ。
AKBやジャニーズ、EXILEがチャートを独占し、ミリオンを連発して、一見、見栄えはいいが、リスナーがその中身がピーマンのようにすっからかんな空洞だと気づくのは時間の問題だと思える。アイドルグループらが売れていることに明確な理由などないのである。その波に乗るのは簡単だが、そこに音楽業界の未来はない。
逆に、音楽業界の全体の売り上げは10年間減少を続けており、そして、そこにはアイドルグループの躍進と違い、明確な理由があるはずだ。そこに日本の音楽業界の偉い方々は気づけるか、見て見ぬ振りを止められるか、目先の利益でなく未来を見据えられるか、が今後の重要なテーマになってくる。
残念なのは、そうこうしている間に、Spotifyを中心とした音楽モデルのあり方の議論から日本のような大国が置いていかれている事だ。Spotifyは間違いなく音楽界の革命児で、今後音楽業界はこのSpotifyを中心に、または基にして展開するだろう。これこそが日本の音楽業界にとっての解決策であると、音楽業界自体が早く気づいてくれる事を、また、日本でもSpotifyが早く使えるようになることを祈って、最後はSpotifyのコンテンツ責任者であるケン・パークス氏の言葉を引用する。
「日本で、決定権を持つ人たちに対するプレッシャーが強くなり、何か違う事をしなければならなくなったら、彼らはそうするだろう。そしてその時は近づいていると私は思う。」