橘凛に今回の日曜日5人で出かけるのは止めとこうと伝えなくてはいけない。
こんなときDメールがあればあの誘ったメール自体を取り消すのだが…と久々のシュタゲネタが炸裂したところで、現実を見なければならない。そもそも俺はやっぱり納得していなかった。近藤がその気ならまた橘と2人で映画を見に行ってやろうじゃないか。ここで映画を選んだのは特に理由があるわけじゃあないが、Win-stay, lose-switchとの言葉がある通り人は成功すると、ずっとその方法を使いたがるらしい。まぁ確かに俺はこの前の映画を成功だったと記憶している。
まぁ、映画と言うのは前も言った通り映画は究極の逃げ道でもあるからだ。2時間は喋る必要がなく、その映画の完成度の高さによりデート自体も完成度が高いと思わせる事が出来る。そして見た後にはその映画と言う共通の話題があるからいくらでも話しを広げられる。
前回と違うのは人目を避けるためにうちで見ると言う事だ。
「そちらのお宅で、ですか?」橘からのメールは当たり前だが驚いている。
「近藤たちが今週は都合があんまよくないみたいでさ、でもお前はせっかく休みなんだから今回はうちでまったり映画なんてどうかなぁと思って。」とメールを返す。5分後橘からの返信。
「面白そうですね。わたし、シュガー&スパイスと言う映画が見てみたくて。」橘は了承。
「分かった。ならそれ借りとくよ。じゃあまた日曜日な。」その後2~3通メールをして、橘は寝た。俺は…と言うと、寝なかった。部屋を掃除していた。眠たいのに、コーヒーを飲んで眠気を覚ましている自分を客観的に見るとORANGE RANGEのラブパレードの歌詞そのもので笑ってしまった。
日曜日はすぐにやってきた。橘とは昼から遊ぶ予定なので、俺は朝のうちに自転車を漕いで近所のレンタルショップに来ていた。
シュガー&スパイスは俺たちが1年生のときに公開された恋愛映画で、なんでも1年経った今、学校の女子達の間で再評価されているらしい。橘もロイヤル・ナイツの面々があんまり推すもんだから、見たいと言っていた。
ここのレンタルショップは品揃えはクソだし、店員は態度悪いし、店内は汚いし狭いし、誰も入らない18禁コーナーはやたら広くとってあるし、いいところはないのだが、とにかく近いので仕方なく来るところだった。店名の割に、ほうれん草どころではどうにもならない状況だった。
邦画のあいうえお順の「さ行」のところに行くと、なんと近藤がいた。
「何かお探しですか?」俺の言葉に近藤がビクッとなる。
「お前かよ…ここの店員が自分から接客するなんてありえないからビックリしたぜ」
「何探してんだよ?」
「ちょっとな。」近藤は教えたくないみたいだった。
「まぁそれならいいが。ちなみにエロコーナーはあっちだぞ。」
「だから無かったのか。サンキューな。」近藤は笑いながら向こうに行こうとしたとき、俺はシュガー&スパイスのDVDを見つけた。それを手に取る。
「お前、それって…。」近藤が不思議そうに俺を見る。
「ん?あぁ、これか。妹が見たいって言ってたんだよ。」嘘だ。でも橘と見るなんてのは言えないし、自分が見たい事にもしたくない。
「あぁ、お前、妹いたもんな。妹のお使いとは中二男子がご苦労なこった。」
「お兄ちゃんは色々大変なんだよ…。お前もこれ探してたのかと思ったよ。人気だからな。」
「…」近藤は黙っている。
「図星なのかよ」
「俺も色々知っとかないといけないからな。今女子の間でどんなもんが人気なのか見とかないとなと思ってさ。恥ずかしいから誰にも言うなよな。」多分嘘だ。
「おう、分かったよ。お互いこの事は秘密だ。またな。」俺が何も言わなかったのは近藤も俺が嘘をついたのに気付いた事が分かっていたからだ。お互いの事は知り尽くしている。俺が分かったと言う事は近藤も気付いたんだろう。しかし言わなかったのは、近藤と俺は「お互いの都合の悪い話しをしない」事を徹底していた。別に取り決めをしたわけではないのだが、徹底していた。変な友情だ。
帰って色々準備をして、橘が来るだけだ。うちに女子が来るなんていつぶりだろうか?恐らく小学校まで遡らなくてはならないだろう。相手はもちろん石川だ。まぁあいつの場合女子と言うかなんと言うか…いや、石川を除いたら悲しい事になりそうなので、この話しはもうこんなもんで止めておこう。
そうこうしているうちに、橘凛がうちに来た。
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