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May 10, 2014

【Cherry】Win-stay, Lose-Switch

橘凛に今回の日曜日5人で出かけるのは止めとこうと伝えなくてはいけない。
こんなときDメールがあればあの誘ったメール自体を取り消すのだが…と久々のシュタゲネタが炸裂したところで、現実を見なければならない。そもそも俺はやっぱり納得していなかった。近藤がその気ならまた橘と2人で映画を見に行ってやろうじゃないか。ここで映画を選んだのは特に理由があるわけじゃあないが、Win-stay, lose-switchとの言葉がある通り人は成功すると、ずっとその方法を使いたがるらしい。まぁ確かに俺はこの前の映画を成功だったと記憶している。
まぁ、映画と言うのは前も言った通り映画は究極の逃げ道でもあるからだ。2時間は喋る必要がなく、その映画の完成度の高さによりデート自体も完成度が高いと思わせる事が出来る。そして見た後にはその映画と言う共通の話題があるからいくらでも話しを広げられる。
前回と違うのは人目を避けるためにうちで見ると言う事だ。
「そちらのお宅で、ですか?」橘からのメールは当たり前だが驚いている。
「近藤たちが今週は都合があんまよくないみたいでさ、でもお前はせっかく休みなんだから今回はうちでまったり映画なんてどうかなぁと思って。」とメールを返す。5分後橘からの返信。
「面白そうですね。わたし、シュガー&スパイスと言う映画が見てみたくて。」橘は了承。
「分かった。ならそれ借りとくよ。じゃあまた日曜日な。」その後2~3通メールをして、橘は寝た。俺は…と言うと、寝なかった。部屋を掃除していた。眠たいのに、コーヒーを飲んで眠気を覚ましている自分を客観的に見るとORANGE RANGEのラブパレードの歌詞そのもので笑ってしまった。


日曜日はすぐにやってきた。橘とは昼から遊ぶ予定なので、俺は朝のうちに自転車を漕いで近所のレンタルショップに来ていた。
シュガー&スパイスは俺たちが1年生のときに公開された恋愛映画で、なんでも1年経った今、学校の女子達の間で再評価されているらしい。橘もロイヤル・ナイツの面々があんまり推すもんだから、見たいと言っていた。
ここのレンタルショップは品揃えはクソだし、店員は態度悪いし、店内は汚いし狭いし、誰も入らない18禁コーナーはやたら広くとってあるし、いいところはないのだが、とにかく近いので仕方なく来るところだった。店名の割に、ほうれん草どころではどうにもならない状況だった。

邦画のあいうえお順の「さ行」のところに行くと、なんと近藤がいた。
「何かお探しですか?」俺の言葉に近藤がビクッとなる。
「お前かよ…ここの店員が自分から接客するなんてありえないからビックリしたぜ」
「何探してんだよ?」
「ちょっとな。」近藤は教えたくないみたいだった。
「まぁそれならいいが。ちなみにエロコーナーはあっちだぞ。」
「だから無かったのか。サンキューな。」近藤は笑いながら向こうに行こうとしたとき、俺はシュガー&スパイスのDVDを見つけた。それを手に取る。
「お前、それって…。」近藤が不思議そうに俺を見る。
「ん?あぁ、これか。妹が見たいって言ってたんだよ。」嘘だ。でも橘と見るなんてのは言えないし、自分が見たい事にもしたくない。
「あぁ、お前、妹いたもんな。妹のお使いとは中二男子がご苦労なこった。」
「お兄ちゃんは色々大変なんだよ…。お前もこれ探してたのかと思ったよ。人気だからな。」
「…」近藤は黙っている。
「図星なのかよ」
「俺も色々知っとかないといけないからな。今女子の間でどんなもんが人気なのか見とかないとなと思ってさ。恥ずかしいから誰にも言うなよな。」多分嘘だ。
「おう、分かったよ。お互いこの事は秘密だ。またな。」俺が何も言わなかったのは近藤も俺が嘘をついたのに気付いた事が分かっていたからだ。お互いの事は知り尽くしている。俺が分かったと言う事は近藤も気付いたんだろう。しかし言わなかったのは、近藤と俺は「お互いの都合の悪い話しをしない」事を徹底していた。別に取り決めをしたわけではないのだが、徹底していた。変な友情だ。

帰って色々準備をして、橘が来るだけだ。うちに女子が来るなんていつぶりだろうか?恐らく小学校まで遡らなくてはならないだろう。相手はもちろん石川だ。まぁあいつの場合女子と言うかなんと言うか…いや、石川を除いたら悲しい事になりそうなので、この話しはもうこんなもんで止めておこう。
そうこうしているうちに、橘凛がうちに来た。


April 27, 2014

Cherry 違和感

「申し出はとても嬉しいのですが、 いつも4人で会うところに私が急に入って大丈夫でしょうか?」せっかくの休みなのだから近藤、蒼木さん、石川、俺のいつもの4人+橘凛でどこかへ行こうと誘った俺に、橘は喜びながらも少し遠慮して見せた。
俺は何を隠そう『友達の友達は友達』論者である。ここで明確にしておきたいのは、この理論はよく『似ている人に似ている人は似ている』理論と同じにされる事があるが、それは全くナンセンスだと言う事だ。例えば、佐村河内さんとおすぎは似ている。佐村河内さんはカンニングの竹山とも似ている。でもだからと言って、おすぎとカンニング竹山は似ているわけではない!…一体何の話しなんだ。

とりあえず、俺は橘凛が俺たち4人のグループに入ろうが何ら問題は無いと言う確信があった。
「あいつらなら大丈夫だって。橘の事も結構話してるしさ、今までずっと友達だったみたいにすぐ溶け込めると思うよ!」橘を安心させるためとかではなく、これは本心から出た言葉だった。
「それなら是非お願いします。一気に”普通の”友達が3人も増えるなんて、嬉しいな。」メールをしている分には本当に普通の女の子の橘の「普通の友達」と言う言葉が彼女が芸能人である事を急に思い出させる。
そうと決まれば、3人に週末の事をメールしないとな。と思ったが、夜も遅いし、どうせ明日学校で会うし、急ぐ必要はない。そう思い、俺はベッドに入った。

今日の学校がいつにも増して騒がしいのは久しぶりに橘凛が学校に来たおかげだろう。
休憩時間は彼女を一目でも見ようとする他のクラスや学年からの人で、うちの教室の前は人だかりが出来る。朝、教室に入るのに一苦労した事で、橘凛が学校にいる事のイレギュラーさを実感出来たのには思わず近藤と苦笑いをした。

彼女を囲むロイヤル・ナイツは相変わらずで、安心する。護衛隊長の佐々木は、活き活きしている。人の上ではなく、人の下で栄えるタイプと言うのは、少ないようで意外にたくさんいる。代表的な例がスネオだろう。彼はジャイアンを失えば、先週の佐々木花音になってしまうに違いない。その点トップに立つ器がありながら二番手を見事に全うし続けた新撰組の土方歳三は立派だ、などと意味の分からない論理を自分の中で組み立ては一人で笑う。これはもう俺のクセになっていた。橘凛に映画デートのとき「一人で考えて笑うのは禁止」などと言われたように、友達になって間もない頃は指摘される事もあるのだが、石川や蒼木さん、近藤はもう気にしない。それどころか近藤と俺は頭の中でこの創造を分かり合っている事が多い。これほどに、最早気持ち悪いくらいに価値観を共有出来る友達がいると言うのは幸せな事だと思う。

だからこそ、反対されたのにはかなり驚いた。
「ロイヤル・ナイツとか、もっと言えばマスコミとかさ、前の映画デートの時とは比べ物にならないくらい橘は人気なんだ。ちょっと今週は止めとこうぜ。」カレーパンを食べながら、近藤は続ける。
「俺は橘凛を加える事に反対しているわけじゃあない事は分かって欲しい。ただ、今はタイミングが良くないんじゃあないかって言ってるだけなんだ。」近藤は真っ直ぐこちらを見つめる。
俺は近藤の言っている事が分からないわけじゃあなかった。もし誰かに見られたら…。決して少なくない数のロイヤル・ナイツ女子を敵に回してしまうのは、俺や近藤はいいにしても石川や蒼木さんからしたら学園生活を大変にしてしまうだろう。何よりマスコミに撮られて、家まで着いて来られたら家族にまで迷惑がかかる。マスコミはそれくらいはしそうだから怖い。ただ、それにしても考え過ぎな気がしてならなかった。いつもの近藤なら、ましてや「友達になって下さい」とたまたま俺が言われた事にあれだけ嫉妬していた近藤が橘と一緒に遊ぶのを拒むなんて何かが…。しかし、近藤は妙に勘がよかった。しかも主に悪い予感の時はよく当たった。なので俺は自分の中の疑問になりかけた何かを綺麗に消し、近藤の忠告に従う事にした。

休憩時間に俺は蒼木さんに呼び出された。蒼木さんとは1年からの付き合いだが、こうして二人で話すのは案外初めてかもしれない。
「こうして二人で話すって言うのは初めてかもなぁ。1年からずっと一緒なのに…」そう言う俺を尻目に蒼木さんは言った。
「まゆがね、何か変なの。佐藤君何か知らないかな、と思って。」蒼木さんが言って来たのは意外な事だった。心当たりなど全くなかった。
「石川が変なのはいつもの事じゃない?俺は何も知らないよ。」あまり雰囲気を重くしないように冗談を交えて答える。
「うーん、そっか。気のせいだよね。ごめんごめん。確かにまゆは変わってるところあるしね!」蒼木さんが笑う。納得したようだ。
その日は、変わった事はそれくらいで、後は普通の学校と同じだった。石川も、いつもと変わった様子があるとは思わなかった。


梅雨明けが発表されてから、雨が降る事はほぼ無くなった。そんな外を見ながら照りつける太陽に暑い夏の到来を感じると、鬱陶しかったはずの梅雨の雨が少しだけ恋しくなる自分がいた。

April 12, 2014

【Cherry】選択

「一週間お仕事をお休みする許可がおりたので来週は学校に行かせてもらいます:) 橘」

あんなに多忙な人が休み時間を学校に使うってどういう事なんだよ、と思いながらも久しぶりな橘凛の登校はやはり楽しみだ。

「珍しいね。何々、スキャンダルが出たりするから?(笑)」さり気なく橘の恋愛事情を探ってみる。

「親が仕事続きで心配になったらしくたまにはお休みをってマネージャーにお願いしたみたいです。私も最近忙しくって疲れてたんでたまにはハメをはずそっかなーって:)」

ハメを外す=学校に通う。やっぱり理解できないなーこいつと思いながらもそんな橘とのやりとりの懐かしさに寂しさを覚えた。

「もし時間があったら近藤たちも誘って5人で街にでも出るか?」送信した後に東京の橘に対して広島の本通りを街呼ばわりした自分に誰からも突っ込みが入らない事で恥ずかしさは増した。一人放置プレイだ。

そんな時に携帯がなった。メール受信音ではなく電話受信音。石川からだ。

「もしもしー、どうしたの急に?」

「あのさー、ちょっと暇だったから。何してるの今?」石川が暇だからって電話してきたことなんて一回もなかった。まだ近藤たちは何かを企んでるのかと自然に俺は思った。

「ちょうど橘とメールしてたんだ。あいつ来週学校来れるって!それにせっかくだから近藤たちも誘ってみんなで出かけようと思うんだけどどう?石川は週末部活は?」

「。。。。。」

数秒間間が空いて電話が切れた。

「ごめん、なんか電波悪いみたいだからまた今度!:)」石川から入ったメールはやけにそっけなかった。

―――5分前、近藤宅―――

そこには近藤と石川がいた。

「じゃあ何、せっかく俺が上げたチャンス全く活かさなかったって事?」

「チャンスって、あんなにいきなり二人っきりにされてもどうしていいかわかんないわよ。」

「これだから中学生は、、、しかもペンギンのマスコットってお前らは小学生かよ。俺はもっと刺激的な報告を期待してたのになー!」

「きっとあんたみたいな人には私みたいに純粋に誰かを好きになるってできないんでしょうね。」そう言われて近藤の顔つきが変わった。

「これがラストチャンスだからな。今すぐ告白しろ。」そういって近藤は石川の携帯で勝手に電話をかけた。

自分の背中を押してくれる誰かがいないと気持ちが伝えられないと思っていた石川にとってこれはまんざらでもないチャンスだった。

電話をし始めてすぐ照れた表情で「暇だったから。」っと言った石川の表情は少しの沈黙と共に濁っていった。

突然何も言わずに電話を切った石川を心配し近藤が話しかけると石川は泣きながら話し始めた。

「どうすればいいの?二人きりでいる時さえもゆうきは私なんか見てないんだよ。告白ぐらいして新しい気持ちで次に進みたいって、いっつもゆうきを見るまでは私も思ってる。でもきっとゆうきは目の前で泣き崩れる私を見て初めて私って存在に気づく。それまでの私は凛ちゃんじゃない人。きっとゆうきは自分がそう思ってることに気づかないぐらい凛ちゃんしかしてないもん。私だって。。。バカだよね。なんで雑誌の表紙を飾るような人と自分が競えるなんて思ってたんだろう。本当におかしいよね。」

泣き崩れていく石川を近藤がそっと抱きしめた。
「俺はお前を見てたから。」
「ずっとゆうきを見てたお前の横顔だったけど、見てたから。」

こうして石川は初めて異性と一夜を共にした。

続く。



March 30, 2014

【Cherry】アクアリウム

日曜日、俺は駅に呼び出された。俺は10分前行動5分前集合が常識と言われる日本で、更に早い20分前行動15分前集合を心掛けている。これは几帳面と言うよりは、ただ単純に、人を待たすのは気持ちが悪いのだ。

今日は水族館に行くらしい。この水族館は元々昔からあったのだが、ついこの間リニューアルオープンした。ロンドン水族館をモデルにしたと言う現代的な外観、家族、子連れ、カップル、一人、誰と行っても楽しめる展示の仕方など、この街を代表する観光地に生まれ変わったようだ。ちなみにこの情報は橘の冠番組で学んだ。

そうして待っていると石川がやって来た。柔らかい花柄のワンピースに大きなベルト。花祭りのときと全く同じような格好をしていた。それを指摘しそうになったが、俺は言葉を飲んだ。
「あれ、今何か言いかけた?もしかして「可愛い」だったりして」石川がいたずらっぽく笑う。やれやれ、と思いながらも石川ごときを相手に少しドキッとしてしまったのはきっとテスト勉強が一段落してしまった油断が原因だと思う事にした。
♪♩♫♪♩♫~ 石川の携帯から倖田來未の『恋のつぼみ』が流れる。なんとも中学校の女子っぽいチョイスだ。
「もしもし~。あ~、何やってんの?もうゆうきとわたし駅いるけど…って、え!?ちょっと待ってよ!いやいやいやいや、意味分かんないから!いや、じゃあねじゃなくて!本当ちょっと待って!…切れた。」
「ん?何かあったのか?」間違いなく何かあったのは明らかだが、俺は聞いた。
「近藤と茜、来れなくなっちゃったって…。」やられた、近藤め。

そもそも、今回の日曜日は近藤が提案したものだった。あいつから何か提案するなんて、らしくないとは思っていた。4人で会う時は、だいたい蒼木さん、石川発信で、稀に俺が何回か提案する事もあるが、近藤から言い出した事なんて無かった。そして、近藤が直接俺に言うのでは無く、石川伝いに俺に言うのも今考えるとおかしかった。

「はぁ、バカらしい。お前と俺の二人だなんてダルいし、帰ろう。」俺が言うと石川は下を向いた。俺は嫌な予感がした。そしてそれは的中する。
「チケット…」街の喧噪にかき消されそうな小さな声で石川が呟く。
「え?」思わず聞き返す。
「チケット、近藤がわたしのとこに来て茜とわたしの分だって2枚くれたの。」
今あそこの水族館は人気過ぎて、水族館としては異例の人数制限を行っているらしく、取るのが少し難しいらしい。それを2枚キッチリ準備するとは近藤は流石だ。って、関心している場合ではない。
「4人で行くのにわざわざ2枚だけを渡すなんてどう考えてもおかしいだろう。」
「今考えるとおかしいけど、受けとったときは全然気付かなかったのよ。」石川がこう言うのは仕方のない事だ。友達の行動を疑うなんて、コイツには特に無縁の話しだ。
「よし、じゃあそれを水族館の外で買えずにいる人に売ろう。」我ながらなかなかの案だ。
「最低・・・。」石川の目が少しマジになった。
「冗談だよ、冗談。ははは。…さて、どうするか。」
「と言うか、わたしと行くのそんなに嫌なわけ?」石川が不満げに聞く。
「いや、嫌じゃないけど、何かダルいと言うか。」
「世間ではそれを嫌って言うんじゃないの?」石川の怒濤の追求は国会議員さながらで、冷や汗が出た。
「いや、嫌って言ったら言葉が強過ぎるというかさ…」これは俺の正直な気持ちだ。何でコイツは同じ幼なじみの女子と改まって二人きりでデートスポットでもある水族館に行ったりする気怠さと言うか照れ臭さが分からないのか。
「よく分かんない。せっかくだし、行こうよ。わたし、実はずっと行ってみたかったんだ☆」色々考えてしまうタイプの俺とは真逆でコイツは何も考えないタイプだ。それにさっきの近藤との電話からのこの切り替えの早さはドルトムントゲーゲンプレスさながらだ。と、言っても誰も分からないか。これ以上文句を言っても石川の機嫌を損なうだけなので、俺は石川と水族館に行く事にした。

水族館はさすがは出来たばかりと言った感じで、綺麗だった。水の青が反照して、幻想的な雰囲気を作り出している。
石川と俺を気まずくさせたのはそのカップルの多さだった。カップルが大勢いて、2組、幼稚園か保育園の団体がいたが、”一人でも楽しめる”との触れ込みにも関わらず一人で来ている人はいなかった。
それを見て石川は今更少し恥ずかしそうな顔をしていた。
「お、お土産…そうだ、お土産!」気まずい沈黙を、石川が打ち破った。
「お土産?」
「お土産買おう、近藤と茜に!」そういうと、石川はお土産ショップに走って行った。リニューアル前はほんの少しのスペースしか無かったと言うのに、お土産スペースはかなり広くなっていた。
「見てみて~このぬいぐるみ可愛くない?」石川は持っている自分の上半身から顔まで隠れてしまうくらい大きなイルカのぬいぐるみを持っていた。
「そんなもん置き場に困るだろ…」
「部屋にぬいぐるみを置けなくなったら、もうそれは女の子じゃないよ!」分かるような分からない持論を展開した石川だったが、持って帰るのが大変そうと言う理由で買うのは辞めた。あんな大きなぬいぐるみと一緒に帰りの電車を共にする事にならなくてよかったと思った。
「これ、可愛くていいじゃん?4つ買っちゃお!」そう言って石川が持っていたのはストラップだった。この水族館で人気のペンギンのものだった。
「4人でお揃いにするのか?」
「何よ、また嫌なの?」不満そうな石川は、クラスで誰に見られて”お揃いなんだ~、へ~”とか言われたときの事を考えてないに違いない。まぁ反論するのも疲れるし、いいか。と言う事で俺たちは4つそのストラップを買って、帰った。

帰って社会のノートを見直していると、携帯が鳴った。
E-mail From 橘凛


さっきつけたばかりのストラップがぶらぶら揺れていた。

March 16, 2014

【Cherry】メール

5月が過ぎ去り、6月が来た。
窓越しにここ数日降り続く雨を見ていると、嫌でも梅雨が来た事を実感する。
俺は6月が嫌いだ。毎日雨が降って蒸し暑く、おまけに祝日がないと来た。
6月なのに、”ろくでもない”とはどういうことか、責任者に問いただす必要がある、責任者はどこか。

相変わらず降る雨と共に変わらないのは橘の席が空席のままな事だ。多忙を極める橘凛は遂に冠番組まで出来てしまうほどに人気が拡大していた。桐生もテレビの仕事こそ多くはないが雑誌やラジオなどに大忙しのようだ。
変わった事と言えば俺と石川がメールをしている事くらいか。最も、全く大した話しはしてないし、学校で会ってもその話しはしないが。

1ヶ月後に来る期末試験に向けて理科のノートをまとめていると、近藤が話しかけて来た。
「久しぶりだな。ノートまとめとは熱心なこった。」
「全然久しぶりじゃないだろ、毎日話してるじゃねーかよ。というかお前はえらい余裕に見えるけど、試験は大丈夫なのか?」
「俺にとっては何か久しぶりな気がしたんだよ。試験は…まぁなるようになるだろ。」近藤が何故「久しぶり」と意味不明な事を言ったのかは置いといて、”なるようになる”は近藤の座右の銘みたいなものだった。事ある毎にこう言って、へらへらしていた。男子中学生がこの言葉を使うときは大抵どうにかならない場合が多いのだが、近藤は有言実行、いつも本当に何とかしてみせた。そして今回もそうだろう。と言うのも、一回も勉強をしているところを見た事がないにも関わらず、コイツは意外に勉強が出来た。近藤の事だ、表には出さないが裏では何かやってるに違いない。
ここで俺を「1日30分これを見るだけだよ~」とか「まだ間に合うぜ!」とか勧誘してくれば何とかゼミのキャラクターそのものなんだが、誘われた事は一回もないため、彼はキャラクターでは無いし、残念ながら俺のスポーツと恋と勉強、全てがいきなりいい方向にいくこともなさそうだ。

「最近橘凛、来ないな。絶対的存在を失った組織を見るのは楽しいけど、彼女を近くで見れないのはやっぱり寂しいよな~。」絶対的存在を失った組織と言うのは残念ながらスティーブジョブス亡き後のAppleではなく、橘凛がいないロイヤル・ナイツの事だ。何よりスティーブジョブスは俺たちが中2のときには生きていた。まぁそんな事はどうでもいいとして、ロイヤル・ナイツでは、護衛隊長こと佐々木花音が中心として何とか盛り上げようと躍起になっているが、メンバーたちの反応は外から見ても気まずさが伝わってくる。その姿はAppleでのティム・クック氏さながらだ、というのはクック氏に少し失礼だろうが、どちらも前象徴と比べると存在感、カリスマ性の欠如は明確であった。
「外から見ても痛々しさが伝わってくるのに、当の本人になったらもうどうなんだろうな。すげぇメンタルだよ。PKはあいつに任せた方がいいな。」近藤がいつも通りシニカルな口調で話す。ワールドカップの重要な場面でのPKで、インペリアルドラモンパラディンモードが登場してPKをきっちり成功するところを想像すると、笑えた。

家に帰ってご飯を食べていると橘凛の冠番組をやっていた。橘凛が色々なところにその日のゲスト数人と行くと言う旅番組であった。
この県内の場所にスポットを当てるらしく、今日は隣町で色々なものを食べ歩きしていた。
こんなところがあるんだな~と番組を通して隣町の良さげなところを学んでいると携帯が鳴った。
「お久しぶりです。最近メールを下さらないけど元気ですか?」驚くことに送り主は石川ではなく、今まさにTVに映っている橘凛であった。
「今丁度橘をテレビで見てるから変な感じがするよ(笑) メール、送れなくてごめん、元気だよ。そっちは?」こう送ると、5分くらいで返事が帰って来た。
「番組、見ていただいているんですね、ありがとうございます。私は最近忙しいのですが何とか元気です。学校に行けないのが少し寂しいですけど。」橘のメールを見ていると学校に来れないことを残念に思っているのがよく分かった。”普通のことを普通にしたかった”だけの橘凛はたった1ヶ月ほど学校に来たあと、またも特別な芸能人に戻ってしまった。彼女が学校でしたことと言えばロイヤル・ナイツに囲まれていたくらいだ。全然普通のことが出来ていないじゃあないか。

俺は映画に一緒に行ったときのことを思い出していた。ただただ映画に一緒に行っただけだが、あの日の彼女は学校でも仕事でも見せることのない心からの笑顔を見せてくれた。…俺の勘違いかもしれないが。
橘はただただ普通のことがしたいだけ。それだけでいいのだ。
そして彼女は普通の友達として俺を選んだ。勉強、運動、私生活、何から何まで普通の俺を橘が選んだのは自然なことだったのかも知れない。
止まってしまったメールをわざわざ橘から再開したのには何か特別な理由があるはずだ。…多分、普通の事をもう一度俺に期待して。日曜日にどこかへ誘おうか、水族館辺り。予想が外れていたらかっこ悪いが。というか、そもそも学校に来れないくらい忙しいのに日曜日なんて空いてるわけがない気もする、しかも今週だなんて急過ぎる。色々考えている間に携帯が震える。メールは今度は石川からだった。
「試験勉強も一段落したから、良かったら日曜日、息抜きがてら4人でどこか行く?ほら、あんたどこか行こうって言ってたじゃない。」
橘は俺何かとどこかに行かなくても大丈夫なはずだ。何より”一緒にどこか行く”と言うのだけが普通って事じゃない。メールのやり取りをするのだって、普通な事なはずだ。

かくして、俺は日曜日にいつもの3人と共にどこかに行く事になった。

March 2, 2014

【Cherry】 責任者

花祭り以来橘とのメールは止まっていた。
こちらから送る事もなければあちらから来る事もないからだ。
元々特に意味のないメールを何通かやり取りしていて、何となく来るから何となく返すのを続けていただけだったのだから一回止まってしまうと、再開する理由がない。どんな事にしろ、始め方と言うのは一番難しいところである。
それと関係あるかどうかは分からないが、橘は学校を休む事が増えてしまった。
いや、俺の何の意味もないメールと彼女の出席率が関係ない事くらい本当は分かっているが。
彼女は花祭りの一件以来、更に注目度を上げ、彼女をテレビで見ない日はないくらいだった。その多忙さが欠席の理由で間違いないだろう。
そして面白い事に、彼女の横にはだいたい、あの男が一緒に出ていた。あの男とは花祭りでの橘凛のバーターこと桐生隼人の事だ。
トークショーでの二人の絡みを見て、これはいけるとTV局が判断したのだろうか、その思惑通り二人は独特のコンビネーションで場を盛り上げていた。

「最近よく出るわよね、あの二人。」食堂でぼーっとTVを眺めている俺に、石川が話しかけてくる。
「そうだった?」俺はとぼけた。
「言われてみればそうね。昨日の夜のバラエティでも二人で出てたし、この間のクイズ番組でも。」蒼木さんが言う。
「もしかして…デキてたり?」石川と蒼木がキャーキャーと女子っぽく騒いでいる。
「いや、それはないよ!」俺と近藤よりも先に否定したのは護衛隊長の佐々木だ。違うグループの会話にいきなり入ってくるんじゃねぇよ、ビックリするだろ。
「凛ちゃんは仕事だけに集中してるよ!それにあの男は凛ちゃんと全然釣り合ってないもん!」そうよそうよ、と言った感じで後ろのロイヤル・ナイツの面々が頷く。
お前らと橘も友達として釣り合ってないんですがそれは…とツッコミそうになるがグッと抑える。
近藤がこっちを見てニヤッとするのを見たところ、同じことを思っているようだ。
「そうかな、僕は彼らは意外にお似合いなように見えるけど…」またも横から入って来たのはおかっぱで背が低いメガネの同じクラスの宮本だ。次から次へと俺たちの会話に横から入りまくるクラス連中である。
「何よあんたは。人の会話を聞いて勝手に入って来て…キモイ。」橘の事となるとやたら攻撃的なインペリアルドラモンパラディンモードが食って掛かる。1分前のお前自身に言ってやったらどうなんだ、と場にいる全員が思っているに違いない。
「僕は案外人間観察が得意でね。君があまりに間違った事を言っていたからつい口を出しちゃったんだ、悪いね。」そう言うと宮本は去って行った。
「なにあれ…ヤバ。」世界の中心がつぶやく。しかし宮本はこの前も俺のやった事を近藤の作戦だと見事に見抜いた。だとすると今回も橘凛と桐生は…。

家に帰って家族で食事を食べているときに見ていたTVには、今日も橘凛と桐生が出ていた。
「本当、二人は一見正反対なのに何か合ってるよね~。」と司会者が言い、それを聞いて二人ともにこやかに笑っていた。
「お兄ちゃん最近橘さんとどうなの?」興味津々に聞いてくるのは俺の事を「お兄ちゃん」と呼んでいる通り、俺の妹のちさとだ。
「どうって言われても…あいつ学校に来てないしな~。」
「最近メールも来てないみたいだし。」
「お前、どうして…」メール交換してる事も、最近はしてない事も、何故知っているのか。
「画面見ちゃって。てへぺろ。」
「そのてへぺろってのやめい。」
「ここ最近ずっと携帯気にしてて、お兄ちゃん、何か珍しいなぁ~って思ってね。やっぱ橘さんほどの人とメールを長続きさせるほどの兄ではなかったか。」妹は残念そうだ。
「メールが終わったのを全部俺のせいみたいに言うのやめんかい。」
「え~。じゃあ橘さんの責任だって言うの?」いや、あれは橘の責任じゃあない。しかしかと言って俺の責任なのだろうか。というか責任ってなんだ?
世の中は複雑だ。問題が起きると人は誰が悪いのか、責任者を、犯人を探す。そして難しいのは、誰も悪くない場合だ。そう言う場合は世間的に立場の弱い方が責任を取らされる場合が多い。
というか全部そうだ。弱者はいつも犯人に仕立て上げられ、自分の意見さえ言わせてもらえない。
橘凛も芸能界と言う一つの世界の中では弱者だ。それゆえに自分の言いたい事は言えない立場。

「橘さんばっかりにいってて1年生のときによく遊んでた人たちを蔑ろにしてない?特に石川さん。」妹が言う。何でもお前に俺の交友関係を心配されんといけないんだ、しかもそこは普通近藤だろう。…でもそう言えば1年生の頃は石川とも毎日4~5通別に意味のないメールをしていたな。あれはいつ終わったんだったっけ。どっちの責任なんだ?石川か俺、どっちが弱者なんだろうか。やっぱりここも俺かな。
そう思うと何だか懐かしくなって、俺は石川にメールを送ってみる事にした。
とは言ったものの、何と送ったらいいか分からず、1時間くらい迷った末にこう送った。
「お疲れ様、最近部活はどう?また暇ができたら4人でどっか行こう。」
5分くらいして、俺の携帯が光る。
「いいけど、どうしたの急に。気持ち悪い(笑)」

それから、何の意味もないようなメールを4、5通折り返して、寝た。たった1行や2行くらいのメールだったけど、1年生のときの事を色々思い出して、何だか懐かしい気持ちになった。


February 15, 2014

【Cherry】花祭り3

人がまばらだった会場もいつの間にか本当に大勢の人で埋め尽くされ、通り抜ける隙間もないくらいだ。
今日のトークショーはアナウンサーが司会で、主役の橘凛、そしてもう一人彼女の事務所からあまり有名じゃない若手が出るようだった。ようは抱き合わせとかバーターとか言うやつだろう。

「みなさん、お待たせいたしました。今回このトークショーコーナーで司会を務めさせていただくアナウンサーの安藤安子(あんどう やすこ)です。そしてこちらが可愛らしい言動で若者からお年寄りに大人気の橘凛さん、そして今最注目の新人モデルの桐生隼人(きりゅう はやと)さんです。」アナウンサーの紹介と共に現れた橘凛と桐生と言うモデル。男だったのは驚いた。いや、確かに抱き合わせは同性とは限らないのだが。
真っ白なワンピースにカーディガンを羽織った橘だが、こんなに真っ白のワンピースを自然に着れるのはさすがは橘凛と言ったところだろうか。桐生は半ズボンにマリンボーダーの七分袖のものを着ている。それにしてもすごい歓声だ。

「橘さん、桐生さん、今日はよろしくお願いします。」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」

がちがちなテンプレで始まったトークショーは、その後も「芸能界に入ったきっかけは」とか「この時期のオススメファッションアイテム」やら「約半年過ぎましたが振り返ってみてどうですか」みたいなザ・トークショーな展開に終止していた。
「芸能界に入ったきっかけは、スカウトされたんですよ。東京に旅行してたときに。」桐生がそう語る。確かに、185cmくらいはあろうかと言うスラッとした身体にキリッとした整った顔。彼が街を歩いているとスカウトが声をかけるのも自然な事と思える。
ちなみに橘凛が芸能界に入ったのは、「多くの人が自分を見て笑顔になってもらいたいから」だそうだ。なんともマネージャーの考えそうな台本だ、と思うのは考え過ぎだろうか。台本があると知ってしまうと全てが台本に思えてしまう。
橘凛がオススメなこの時期のファッションは、本人も今日着ている、やはりワンピースだそうだ。彼女は最近『森陰シャツ』と言うブランドのものを愛用しているらしい。彼女がこれを言ったあと、アナウンサーが何度も表記を確認し、ご丁寧にホームページのURLまで読み上げていた。きっとこのブランドは明日からは品薄状態が続くのだろう。これが上手な”モデルを使ったマーケティング”と言うものだろう。いや、ここまで露骨だと、上手かは分からないが。
桐生の今年は勝負の年だそうだ。そして”このステージはかなり大きくてスポンサーのお偉いさんもたくさん来ているのでかなり気合いが入っている”と語って笑いを誘っていた。
そして橘凛の今年のこれまでは、たくさん仕事をして学校にも行けて、充実しているそうだ。

「学校と言えば橘さんは最近、この近くの学校に行き始めたそうですね?」アナウンサーが”この近くの学校”とほぼ特定するような事を言ったのにドキッとしたが、そこから話しは学校の事に。
桐生は現役の高校生らしく、勉強について行くのは大変だが、芸能界との両立に毎日にやりがいを感じているそうだ。
「橘さんはどうですか、学校は楽しいですか?」とアナウンサーが聞くと、
「毎日面白くて優しいお友達に囲まれて、とても楽しいです。」との橘の解答にロイヤル・ナイツが座っている辺りからキャーキャー騒ぐ声。いや、この受け答えは絶対に台本だ。…これはロイヤル・ナイツに対する嫉妬などではない事を明確にしていただきたい。

そこから更にもう少し学校の話しを繰り広げて、30分程でショーは終わりに向かっていた。
「そう言えば橘さん。」最後に、と言った感じでアナウンサーが話し始める。
「今日は誕生日なんでしたね。」
そう言えばそうだ。俺はあの日の事を思い出していた。靴箱にメールアドレスが入っていたあの日。それが橘のメールアドレスだった事。そしてアドレスにあった0503が何の数字なのか、調べてみると、それが橘の誕生日だった事。
5月3日、それは正に今日、GWの初日であり、花祭りの初日でもある。

「え?…あ、はい。そうなんです。」突然の事に少し驚くも、すぐに冷静に対処する橘凛。どうやらこれは台本には無いサプライズのようだ。
すると壇上にはかなり大きな誕生日ケーキが運ばれて来た。
「桐生さんが企画されたんですよ。」アナウンサーの言葉に驚く橘。桐生は照れくさそうだ。
「橘さん、誕生日おめでとうございます!!」アナウンサーのその声と共に、会場には誰かが歌った誕生日の歌がどこからともなく聞こえ始め、そして観客全体の大合唱へと変わった。俺は、自分が誰か歌手のコンサートに来たような感覚に陥った。

そのイベントだけでなんだか疲れてしまった俺は、とっとと家に帰った。と、言っても、それは近藤と石川と蒼木さんにとっても同じだったようで、3人も”帰る”と言う俺の選択に同調してくれた。そして4人とも口数少なに家に向かって歩いた。疲れているときの出店は疲れを倍増させる。楽しいはずの出店がその日の帰り道は鬱陶しかった。

その日俺は橘凛に誕生日おめでとうメールも何も送らなかった。本当に大勢の人に言われているだろうし、俺だってトークショーでのあの場所にいたのだから、今更送る必要性も見いだせなかった。何より、芸能人と言う前に、異性のクラスの女子に誕生日メールなるものを送るのも照れくさかった。
「お疲れ様」くらいのメールは送っても良かったのかもしれないが、メールを送る以上、誕生日には触れなくてはいけない感じがして送れなかった。
結局、橘からもメールは来ず、その日は橘とはメールをしなかった。これがアドレスを交換してから、メールを一通もしなかった初めての日になったと気づいたのは、少し後になってからだった。

そして、あの時、何かメールを送っていれば、俺の現在は違ったものになっていたかもしれない、と思われるターニングポイントの一つでもあった。

February 1, 2014

【CHERRY】花祭り2

花祭りはさすがに三大祭り中一番の規模だけあって、出店もステージもかなり広い範囲に散らばっている。ぎりぎり出店が出ている端っこの方のエリアにある俺たちの家がある地区からメインステージがある記念公園までは徒歩15分くらいで、すごい人混みの中をずっと歩くのは結構疲れる。

「あ、綿菓子があるよ!」「人形焼きって可愛いよね~。」「射的だ!」と何か出店を見る度に、はしゃぐ蒼木さんと石川を見ていると、”目に入ったものの名前を全部言う人”と言うネタをやっていたお笑い芸人を思い出した。彼もこういうテンションの高い女子中学生から、あの芸のヒントを得たのだろうか。このテンションでメインステージまで体力が保つのか心配は増す。ちなみにあの芸人は全然保たずにすぐに消えてしまった。最も彼の場合、原因は体力的な事ではなさそうだが。

「チョコバナナだ~。買っちゃお!」蒼木さんと石川がチョコバナナを買う。近藤が「チョコバナナが許されるならバナナだけを食べたってそれは許されるべきだ」とコンビニでバナナだけ買って食べ歩きしていた去年の花祭りが懐かしく思える。一緒にいた俺まで変な目で見られてしまった。しかし、確かにバナナだけを食べるとおかしな目で見られ、チョコをコーティングしただけでそれが許されるようになると言うのは不思議なものだ。バナナと言う本質は同じなのに…。はしゃぐ女子二人の横の近藤にふと目をやると、複雑な顔をしていた。恐らく俺と同じく去年の事を思い出していたのだろう。

半分くらい歩いたところでチョコバナナを食べ終わった二人が金魚すくいの前で立ち止まった。どうやらやりたいらしい。

「金魚すくいってさ。」近藤が話し始める。

「金魚を狭い水槽の中から助けるから”金魚救い”って言うんだってよ。」

「へぇ~。そうなんだ。」石川は少し興味を持って聞いているらしい。

「でも、それは本当に金魚にとって救われてるのかな?例え狭くてもたくさんの仲間とそれなりの金魚についての知識がある店主さんの元にいた方が幸せなんじゃないかな。」近藤は真剣な顔だ。

「それが金魚にとっての救いかどうかはその金魚にしかわからないんじゃないかしら。」蒼木さんが言った。

「自分の価値観で見て、おかしいからあの金魚は可哀想だとか、自分から見て幸せそうだからいいとか、正義のつもりか?そんなの、ただの上から目線の同情でしかないだろ。」俺も乗ってみる。

「正義だなんて思ってないよ。ただ、結局のところ、金魚は救う側を選べない。それが救いであるかないかなんて誰にも分からない。ただ人間たちは自分のやっている事を正当化するために、全てを救いだと思い込ませるために”金魚救い”と呼んでいる。なんて利己的な生き物なんだ。」近藤が切なそうに金魚の泳いでいる水槽を見る。

「まぁ普通に掬うから金魚掬いなんだけどな。」と俺が言うと、
「あ、てめーネタばらししてんじゃねーよ!せっかくいい話しだと思ったのに!」近藤が言う。

「えー!?普通にウソだったの!?」石川が驚く。近藤と俺は笑っていたが、蒼木さんは苦笑いだ。俺は蒼木さんも信じていたんじゃないかと少し心配になった。いや、というか多分信じていた。説得力があるウソは、時としてみんなの中では本当になってしまう事もある。

「さて、そんなこんなでメインステージが見えてきたぞ。今年も相変わらず意味不明に豪華だな。」近藤が言う通り、いや、意味不明かどうかは分からないが、一番目立つところに大きく設置されたメインステージが見えてきた。20mはあろうかと言う横幅に、奥行きもまぁまぁあって、『花祭り』と言うだけあってたくさんの色とりどりの綺麗な花たちが飾られていた。このかなり広いステージをたった一人で使うんだから橘はやっぱりすごいなぁと素直に思った。



「あまり不安はないんですよ。何を話そうか、なんて考えなくても、もう台本はあるんです。私はそれを覚えるだけなんですよ。」昨日のメールで橘凛は言っていた。
「でも、かなり大きなお祭りですし、TVも来ます。スポンサーとの兼ね合いなどもありますから、仕方の無い事です。あ、他の人には絶対言わないで下さいよ。」
彼女も”説得力のあるウソ”で自分はそういうキャラである、と世間に認識させている。
”仕方ない” 彼女はそう言っていたが、やっぱり橘凛がお偉いさんの操り人形のようになっているのが可哀想に思えた。あそこの最前列に座っているのは事務所のお偉いさんだろうか。高そうなスーツに細い銀のフレームの眼鏡をかけて、何やらしきりに携帯で話しをしている。彼女を操っている(かもしれない)人…
彼女を可哀想と思うのも先ほどの”金魚救いの件”のとき他でもない自分自身が言った”上から目線の同情”なのだろうか。そんな事を考えていた。

「あ~花音ちゃん達だ。」蒼木さんと石川が前の方を見ながら言った。ちょうどそのお偉いさん(であろう人物)の横の同じく最前列に5~6人で陣取っているのはロイヤル・ナイツとそのリーダーの佐々木花音(かのん)だ。護衛隊長、世界の中心、インペリアルドラモン・パラディンモード、でお馴染みの佐々木。というかコイツは何個あだ名があるんだ。

「あら、まゆさん、茜さん、近藤くんに、……っ!!」インペリアルドラモン・パラディンモードは俺の方を見て明かに強ばった表情を浮かべた。名前さえ言ってくれない辺りに彼女の気持ちがよく表れている。

「何しに来たの?凛ちゃんにまた何かしたらウチが許さないから!」護衛隊長は俺に凄んだ。横のロイヤル・ナイツも、全員”戦闘準備完了”と言った感じで身構える。おいおい、ここは平和の国日本だよ。

「まぁまぁ、今日は私たちが無理矢理連れて来たんだよ。ゆうきは嫌がったんだけど…」信じられない事に石川が俺を庇う。それは世界の中心にとっても同じだったようで、戸惑っているのが表情からもハッキリ分かった。

「じゃ…じゃあ、私たちも席を探さないといけないからまたね。凛ちゃんの出るコーナー上手く行きますように。」最高のタイミングで蒼木さんが別れを告げる。トラブルにならないで良かった良かった。


なんとかロイヤル・ナイツたちから離れた俺たちは少し離れたところで席を確保し、橘のトークコーナーが始まるのを待った。ステージの花々の匂いが、客席まで届いて来ていた。

January 26, 2014

【CHERRY】花祭り

さぁいよいよ花祭り当日。

まだ五月の初旬だというのに晴れすぎた空は人だかりの多いこのお祭りには少しきつい。

学校の校門で待ち合わせをしたがそこには珍しく時間どおりに来た近藤だけがいた。

「あいつらが先に着いてないってめずらしいな。」近藤が言った。

その後に続く若干ウザいシュタゲワールドを恐れたがそれに続く言葉はなかった。

「きっと石川が遅れてるんだな。本当に女子ってなんで一人で行動できないかなー。」俺は普段あんまり熱くならないタイプの人間だが何個か引っ掛かるキーワードがあり、”連れションの不必要性”は少し冷めてる俺の血を熱くする。基本的に一人で行動できない人間が嫌いなのだ。

「なんか最近あいつらと前ほど話さなくなったよなー。一緒にいる時間は変わらないのに、なんか少し距離ができたような気がするんだよなー。」近藤のくせに真剣な発言。

「そうかなー。俺は変わんない気がするけど。」

「お前色んな人達を客観的に見すぎだぞ。届かないものに手を伸ばしすぎて今掴みかけてるものまで落とすなよ。」近藤が何を意味しているのか全く分からなかった俺は「うん。」とだけ答えた。

「遅れてごめんー!蒼木の大きな声。

「おい、今は部活中じゃないんだから声抑えて抑えて。お前しっかりしてるのにたまに恥ずかしいよな。」近藤一言を聞いた残りの三人はいつも一番痛い行動をとる彼のその発言に目を合わせて笑った。

「でもお前らが遅刻って珍しいな。」俺が聞く。

「なんかまゆが朝いきなり買い物に付き合ってって言ってきて、今まゆが着てる服全部さっき買ったんだよ。」蒼木に言われたくなかったのか、石川は少し照れているみたいだ。

確かにいつもの子供っぽいTシャツに短パンの影はなく柔らかい花模様のワンピースに大きなベルトをしていた。The モデルの真似をしましたって感じだが意外によく似合っていた。

そう思い彼女をじっと見ていると目があった彼女が言った。

「あんた凛ちゃんの私服べた褒めだったけどみんなお金がないだけでセンスが無いんじゃないのよ!」これは俺が橘の私服の話をした時に口にした”中二の女子の私服が一番見苦しい”という失言を明らかに意識していた。

「それにあんた人の服をどうこう言えるほどお洒落じゃないじゃない。」追加攻撃だ。

「だって俺服にお金使わねーし、男なんてお洒落でもなくダサくもない程度が一番モテるんだぞ。ってモテない俺が言っても説得力ないか。」俺の一言に石川はいつも通り不満そうだ。(笑)

近藤と蒼木が目を合わせて苦笑いをした。それを横目に感じた俺と石川の視線を受けるとともに二人「出発―ッ」と言いお祭りの方向へと足を進めた。

久しぶりに感じるいつもの四人らしいいつもの四人に皆の顔を少しだけいつもよりにこやかだった。

続く

January 18, 2014

【Cherry】久々の4人


俺たちの住んでいる街では年に三つ、大きなお祭りがある。
えびす祭り、稲荷祭り、花まつりだ。

とりわけ花まつりはこの三つの中でも一番大きく、毎年5月3、4、5日に行われて、100万人以上を動員するこの町一番のイベントだ。
大通りがほぼ1日歩行者天国となり、パレードが行われ、大小様々なステージが設けられ、歩道は多種多様な出店で賑わう。この頃は”はしまき”が100円で買えたというのに今や300円、500円だ。そう言えばずっとこの土地にいると言うのに花まつりには長らく行っていない気がする…ってそれはまぁいい。
この年は1日目に橘凛がメインステージでトークイベントをすると言う事で、みんなで見に行こうと言う話しになった。みんなと言っても近藤、石川、蒼木、俺の四人だ。

「何か、去年まではみんなでよくどっかに行ってたのに、こう久しぶりだと変な感じがするな。」懐かしそうに近藤が言った。確かに、言われてみるとこの4人でどこかに行くのは2年生になってからは初めてだ。

「クラスの女の子の目があるからね~。橘さんをジロジロ見て告白までした変態とどこかに行くなんて私たちまで橘さんの友達に敵視されちゃうわ。」石川がこちらを見ながら話す。

「友達ってのは同等の関係にこそ使える言葉だ。あれはロイヤル・ナイツ。友達じゃない。」近藤が正すが、蒼木さんがすぐさま反論する。

「近藤くん、ロイヤル・ナイツなんて言い方、良くないと思う。彼女たちは同じクラスの友達じゃない。」さすがの”聖人”蒼木さん、彼女の前では人の悪口は許されない。

「何!?機関は既に彼女まで…。なんだと!?俺にやれと言うのか?いや、仕方ない事だ、それがシュタインズゲートの選択だと言うんならな。エル・プサイ・コングルゥ。」どこかに電話をかける仕草をして一連の流れをやりきる近藤。ここ最近はずっとこんな感じだ。他人の目を全く気にしないところはコイツの強みであり、弱みでもある。

「最近それすっごいやってるけど、なんなの…?」不思議そうに石川が聞く。無理もない。元ネタを知っている俺でさえ、戸惑っているのだから。

「石川よ、そんなに知りたいか。しかし貴様をこの機関との聖戦(ラグナロク)に巻き込むわけにはいかんのだ、すまん…。」神妙な近藤。俺は思わず吹き出してしまった。
「イラッ☆」と石川が言ったような気がした。いや、顔が言っていた。

「ま、まぁさ。せっかく4人の予定が揃ったんだから楽しもうよ。」俺が場を仕切り直す。仕切るのは本当なら近藤の役目なのだが、俺たちの知っている近藤はどこかに行ってしまったので仕方ない。

「あんたは楽しいでしょうね~。何しろあなたの大好きな大好きな橘凛様を見に行くんですから。」石川が皮肉たっぷりと言った感じで俺に言う。いつもぐちぐち揚げ足を取ったり文句を言ってくる石川だが今日はやたらとしつこい。

「もうその絡みはいいよ。真実は近藤から聞いたんだろ?お前はいつからロイヤルナイツになったんだ?」さすがの俺もやり返す。

「まぁまぁ。こんな感じだけど、まゆ(石川の事。石川真由美)すっごく心配してたんだから。」蒼木さんがそういうと、石川は焦って

「ぜ、全然心配なんてしてないわよ!」と急いで訂正した。近藤はそれを見てニヤニヤしている。

「まゆ、女の子たちが佐藤君(俺。佐藤ゆうき)の事悪く言う度に否定してたじゃない。」蒼木さんはクラスのリーダー的存在で、人をまとめるのが上手だが、たまに抜けているところがある。彼女が人格者故に誰も突っ込めないが…。ただ蒼木さん、俺が言うのもなんだけど、それは俺には言わない方が石川のために良いんじゃないか?

「ち、違うわよ。そんな変態が幼なじみだってなったら嫌だから、ゆうきはそこまで変態じゃないって言うのをちょっと説明しただけよ。」石川がかなり慌てた様子で説明する。

「でもまゆ、あの体育のときだって」
「ストップストップ!もうその話しは終わり、ね?茜。(蒼木さん。蒼木茜(あかね))」蒼木さんが更なる暴露しようとしたところで石川のストップが入る。まだまだ聞きたかったが、だいたい予想出来たのでよしとしよう。蒼木さんにはお礼に今度リプトンを奢るとするか。そんな事を考えていた。そして、石川も口では悪く言っていても俺の味方でいてくれている事に安心した。石川にもリプトンだな。いや、でもコイツは口では酷い事を言ってくるからあずきバーにしてやる。一般人には硬すぎるので溶けるのを待つしかないが、近藤と一緒のときにそんな事をすると、近藤は説教を始めてしまう。女子にとってはあの殺人的な硬さのあずきバーは拷問のようだろう。
小学校の頃、近藤に好意があった石川は近藤に認められようと何回もあずきバーにチャレンジしては、諦めて泣いたりしていた。あずきバーを買って渡して、苦しんでいる石川を想像すると、自然に笑いが出た。

「どうした、急に。何笑ってんだ?まさかお前まで既に機関の…」
「どうせまた愛しの橘凛様でしょ!」石川が近藤を遮った。さっきまでの憎まれ口も、今はもうなんともない。

街ではステージの設置が着々と進み、綺麗に咲いた花々の春らしい匂いから、花まつりはすぐそこまで来ている事を感じ取れた。


続く


January 11, 2014

【タイトル未定】 CHERRY



あの日のデートから二週間ほどたった。

メールを毎日何通か交わす僕らは不思議と学校ではあまり話をしない。

橘凛はいつも数人の女子たちに囲まれていて、クラスのみんなはその女子達をロイヤル・ナイツと呼んでいた。

クラスの男子が声をかけようとする度「下心レイダーが反応してるわよ」と主人を守る犬のように彼女たちは橘を守ったからだ。


「トゥットゥルー♪」休憩時間になると決まって近藤は俺の横の机に座る。俺にはあの護衛軍達の下心のほうがよっぽど大きいと思うけどな。」

「佐々木なんてブログを更新するたび「凛ちゃんとごはんー」とか「今凛ちゃんと暇してるー」とか。お前の暇と芸能人の暇を同じ扱いって自分と橘が同じ世界線上に生きてないこと自覚してなさすぎだろ。」自分に優しく他人に厳しい近藤は相変わらず健在だ。そして言葉の端々からシュタゲーが滲み出ている今日の彼は活き活きしている。

「あるアニメにはまったのでしばらく学校をお休みします。」何の悪気もなくそう言い残し先週一度も学校には来なかった近藤は充実した休暇がとれたようだ。

「下心のある女って醜いよなー。アイツらもどうせなら橘のスカートの端を持ちながら歩くぐらい欲を出して護衛軍の仕事をすれば少しは見映えもましになるんだけどな。あ、”世界の中心”最近は”護衛隊長”って呼ばれてるんだって。」”世界の中心”とは佐々木の愛称だ。「もうちょっとひねれよ。つまんねーな。どうせならインペリアルドラモン パラディンモードとかの方がよくね?」

「そんなデジモン豆知識だれも持ち合わせてねーだろ。」心からでた俺の一言に不満をもった近藤はいろいろ反論しているみたいだが俺は全部聞き流した。

佐々木はクラスに必ず一人はいる人気のためには手段を選ばない子だ。話題の中心に自分があることが彼女の人生で一番大切なことなのか一度自分とその時も担任だった村上が恋愛関係にあるという嘘をついて学校中を騒がせた事で知名度だけはある。しかし本人が撒いたガセ情報と裏付けがとれた次の日から彼女には性格を皮肉った「世界の中心」というアダ名がつけられた。


「おい、お前最近リアクション薄いぞ!もしや貴様もう機関のエージェントの手に・・・・・・合言葉は?」近藤がこうなると誰の手にも止まらない。

「・・・・・・・・・・・・・はぁ。エル・プサイ・コングゥルー。」俺の放ったその言葉に近藤はやけに満足そうな顔でうなずいた。

。。。



そんな感じで今日も特に刺激のない学校での一日が終わり家に帰って橘にメールを打った。

「お疲れ様。どんどんロイヤル・ナイツ一色の学園生活ですね。」毎日こんなたわいのないメールを送る俺。一行の短いメールに一行の短い返事が返ってくる。それを何通か繰り返しどちらかの「じゃあまた明日学校で。」で終わる絵文字の一つさえないやりとりだ。

もう一か月ぐらいになる俺と橘の不思議な関係。いったい一般人中の一般人の俺からくるこんな不必要なメールを彼女はどのような心境で受け取るのだろう。考えれば考えるほどこの疑問の答えを知ってしまえば甘い夢から覚めてしまうような気持になり、悲劇を綴った作品の甘い序章の主人公を自分が演じているような気がした。

夢は夢だから、夢のままで人々の理想の中を色彩豊かに自由に泳ぎ回る。その心の中のキャンバスの色彩をモノクロな現実に重ね合わせ人々は幸福を得る。それに比べ夢が半端に叶うということは現実が彩られすぎて心がモノクロになる。それは夢を生きながら死ぬ事だ。それを人々は”何気ない生活の中に幸せを見つける事”の重大さとして語り継いできた。

君の手で切り裂いて 遠い日の記憶を
悲しみの息の根を止めてくれよ
さあ 愛に焦がれた胸を貫け♪」

携帯が鳴った。

そう、俺の着信音はポルノグラフィティのメリッサ。

携帯の画面に”橘凛”と表示されてこの歌を聞かされるのは突然の雨に打ちひしがれ、ずぶ濡れになり諦めがついた瞬間に包まれる不思議な開放感と同じようなものがあった

「めんどくさい人ほど仲間にしておくものですよ。」そんな彼女の返信に芸能界の黒さと厳しさを垣間見て少し戸惑う俺。
「あの、さっきのは冗談ですよ。転校生の私と仲良くしてくれて感謝してますよ。」一分もしないうちに続けてもう一通きた。直接話す時はタメ口なのに文上での敬語は彼女の癖らしい。

本当の友達や仲間っていうのはいちいち一緒にいることに感謝なんかし合わないんだぞ。」そう返信した。

「本当の友達って具体的にどんな感じですか?」いつも少し間が空いてくる変人がやけに早かった。


「もっとこう、一緒にいるのが当たり前だったり、気付いたら仲良しになってたり、不思議な絆を感じたり、そういうもんなんだよ。俺なんか、なんで近藤と自分がこんなに仲良しなんだろうってあいつと話す度に思うもん。なのに先週あいつ不登校だったから妙に寂しくってさ、ほんと腐れ縁ってやつだな。」なんとなく俺は世間一般の友達作り理論を展開した。

「じゃあ私たちは本当の友達ですね。」彼女の返信にはそう書いてあった。メリッサの歌詞を口ずさむ俺。決して”好き”という感情があるわけではない。しかし、そこには不思議な居心地の良さだったり、一定の規律で刻む事を忘れた自分の胸の鼓動が妙に気持ち良かったり、気付けば浮かんでくる横顔だったり、そんなもの達で溢れている自分は確かにそこにいた。

また一分後には”冗談ですよ”、なんか送ってこないよなーと三分ほど待って「お前、色んな人にそれ使ってるだろ。(笑) じゃあまた明日。」と返信した俺は自分の照れを文上に見て、それを自ら笑った。大きすぎる夢も野望も持たない主義の俺はこの不思議な関係のままでいることが自分にとってのベストだと思った。そして自分の恋心で二人の関係を酸化させることを嫌った。

「もし俺達の物語が本当に悲劇を綴った本だったなら、今俺は何ページ目を読んでいるのかな。」そんな事を考えた。

その後彼女からの返信はなかったのでメリッサの歌詞は霞み、甘い気持ちで就寝に着いた俺はページをめくる覚悟を決めた。

つづく

January 4, 2014

【タイトル未定】映画

「今日は映画を見に行こうと思ってるんだ。」俺は言った。

「映画ですか。いいですね。好きです。何を見に行くんですか?」橘が聞く。

「ちょうど今日公開になったデス・ノートを見に行こうかと思ってて。予告を見た感じはすごく面白そうだよ。僕はマンガも読んでるから結構興味があってね。」

「あ~。デス・ノートですか。実は…」橘は気まずそうな顔をしていた。

「あ、見ちゃった…?」

「…はい。すいません。私、マンガが好きなのですが、それを知っている関係者の方が試写会に呼んでくださって。で、でも二回目でもいいですよ!!」橘はそう言うと申し訳なさそうにニコッと笑った。

「う~ん…いや、それなら別の映画を見よう。『タイヨウのうた』なんてどうかな?」-常にプランB、またはCを用意しておく-これは近藤がよく言っている言葉だ。いつもは”何を言ってるんだコイツは”と思っていたが、今回は近藤に助けられた。

「あぁ、面白そうですね!実はあれ、私の友達も出ているんです。って言ってもエキストラで役名とかセリフはないんですけどね。」サラッとすごい事を言う橘。この辺りはさすが芸能人だ。

「お、おう。じゃあ決まりだね。でも映画館に行く前に一つお願いがあるんだけど、やっぱりサングラスくらいはしてくれないかな?どう考えてもバレちゃうし、男と二人なんてバレたら絶対マズいよ。」中学二年生ながらフライデーを警戒する俺。

「あははは。まぁ、それもそうですね。では。」そう言うと橘はサングラスを掛けた。あまりカモフラージュにはなってないが、ないよりはマシだろう。って言うかサングラス持って来てるんなら最初からかけろよ!そう頭の中でツッこんで、少し笑うと橘は

「あ、また頭の中で何か完結させましたね!ダメだって言ったじゃないですか!今日はそれ禁止です!」と笑いながら少し怒った。

「あ、ごめんごめん。了解。それじゃあ行こうか。」そう言っておれたちは三角公園から出た。今日はあまり考えすぎずに思った事はパッと言おう。そう決意した。



おれたちが見る予定の『タイヨウのうた』は、デス・ノートの人気に比べると少し落ちるが、人気アーティストであるYUIの女優デビューでしかも主役と言う超話題作で、デスノートと同じ、今日公開だ。そんな事もあってか、人はたくさんいた。


そして俺たちは長い列に並んでなんとかチケットを2枚買った。学生割で1000円、2枚分だと2000円を
俺が支払った。近藤によると1回目のデート代は”男が出すのが基本”らしいからだ。橘凛はかなり申し訳なさそうにしていたが、”男が1回目を出す”には理由がある。
なんでも1回目のデートで奢る事によって、女の子は申し訳なく思う。そこで会計のときにこう言う「分かった。じゃあ次は出してもらおうかな。」と。こう言うと女の子は納得し、次のデートの約束も取り付けやすいと言う事らしい。本当に近藤には助けられている。ヤツはそれを知らないが、自分の教えた事で俺と橘のデートを助けたと知ったらかなり怒りそうだからまぁいいだろう。


「あ、私、何か買いたいです。映画館に来た事があまりないので、映画を食べながらこの大きいポップコーン食べるのが夢だったんです!キャラメルと塩、どちらがオススメですか?」売店を見ながら橘は楽しそうに聞いた。キャッキャとはしゃぐ姿が小学生のようでかわいい。

「うーん、俺はいつもハーフ&ハーフを頼むかなぁ。いつもLを頼むんだけどあのLって意外に食べきれないんだよねぇ。…あるあるなんだけど、分かんないか。」不思議そうな橘を見ると、おかしくなって俺は笑った。

「そうなんですか?私は食べれる気がしますけどね。あ!じゃあここは私が出しますね。さっき言われてた”次”はこれですね」橘はにっこりと笑った。満面の笑みの彼女は自分が俺の”次のデート”への期待感を粉々に打ち砕いた事など知る由もない。



ポップコーンとジュースを買った俺たちは劇場に入った。席はたまたま真ん中の方が空いてたのでそこを取った。トイレには行きづらいが、映画を集中して見るにはよさそうだ。


俺たちが見たタイヨウのうたは、太陽の光に当たれない『XP』(色素性乾皮病)と言う病気を抱えた音楽が大好きな女の子が、たまたま彼女の家の近くを通りかかった少年に一目惚れをする。そこから彼ら二人の人生は大きく変わって行く、と言う物語であった。


病気が進行していって大好きなギターが弾けなくなるが、それならばとギター無しで必死に歌おうとする彼女、それを聞いて号泣する彼。そんなシーンで、ふと横を見ると橘凛が泣いていた。意外にこういうので泣く人なんだ、見た目の通りもうちょっとツンとした人なのかと思ってたんだけどなぁ、などと思いつつ、自分も少し泣きそうになった。特に主題歌の”Good-bye days”はとてもいい曲だった。




映画が終わり、やっぱり残ってしまったLサイズのポップコーンを捨てた俺たちは近くのカフェでコーヒーを飲みながら映画についての話しをする事にした。

「とてもいい映画だったね?」俺は聞いた。”第一に聞く姿勢”というのが大切らしい。…もちろん近藤が言っていた。

「はい、とても。」そう言った彼女はどこか寂しげな顔をしていた。
「…私、共感しました、あの主人公に。少し似ていると思って、彼女と私。」橘凛は言った。

「彼女ってYUIがやってた主人公?」

「はい。私はどこかに行きたくても理由もなしに外に出る事を許されません。そこにいるだけで周りがパニックになる可能性がありますし、変な事をしようとしてくる人もいます。なので外出にしろ何にしろ、何をするにも理由が必要で、父や母やマネージャーに言わなくてはいけません。私だってコンビニに普通に行って普通に菓子パンや紙パックのジュースを買って、みんなで飲んだり食べたりしながらわいわいしたい。けど、そんな事は許されないんです。何か買うくらいの用事ならマネージャーが代わりに行って買って来てくださいます。そもそも学校帰りはいつも送り迎えがあるので友達と帰る事さえ出来ませんけどね。」寂しそうに笑う橘。芸能人と言うのは意外に大変そうだ。彼女は続けた。

「映画を見ていて、こういう芸能人として自分の状況と、あの映画の彼女を重ねてしまいました。しかし彼女は病気で外に行きたくても行けないにも関わらず、たまたま通りかかった彼が気になって、必死に追いかけて告白しました。そして病気が進行してギターが引けなくなって声も出しにくくなったけど必死に歌った。何かをしようと、病気なんかに負けないようにと、必死にもがいていた。しかし私は普通の事がしたいと思う事は多々ありますけど、そのときにマネージャー、父、母に一回でも嫌だと言った事があったでしょうか。そう思うと病気とたった一人で孤独に戦っている彼女はとても立派だなぁって、なんだかそんな風に思ってしまって。」橘は遠くを見つめていた。

「そんな事ないよ。彼女は確かに立派だった。でも君も充分立派だよ。主人公の彼が言ってた「君の曲は皆に届いているよ、太陽に当たれなかった君がみんなの太陽になっているよ」って言うセリフ。あれは君にも当てはめられると思うんだ。」そんなセリフが咄嗟に出て来た。

「え?」橘凛はパッとこちらを見た。

「君は確かに普通の事は出来ないかもしれない。けどそういう普通とは違う橘凛を見て、魅力を感じている人はたくさんいるんじゃないかな。女の子は君をお手本にして、男は君に憧れる。それは普通じゃない君にしか出来ない事なんじゃないかな。まさに”普通の事を出来ない君が普通の人の憧れになっている”んだよ。それに芸能人なんて周りから受けるプレッシャーが同年代とは段違いだ。売れずに腐って行く子は売れる人の何十倍も何百倍も、もしかしたらそれ以上にいる。それなのに君はあそこまで人気で、あそこまで人々に求められてるじゃないか。それって素直にすごいよ。」

「求められるって…案外楽じゃないんです。」橘は言った。

「”求められている自分”と”本当の自分”には多かれ少なかれギャップがあって、みんな一人一人の中で”自分の橘凛”を作り上げて、少しでも自分の求めてる私と離れるとバッシングをします。例えそれが本当の私だったとしても。芸能人のキャラって言うのは事務所の戦略や時代の需要などから決まるものなので、私は”私じゃない私”を黙って演じなくてはいけない。なので、たまに自分がロボットみたいに感じる事もあります。」彼女はやるせなさそうに語った。

「ごめんなさい。こんな事、あなたに言ってもどうしようもないのに。でも、あなたがさっき言ってくれた言葉、すごく嬉しかった。それに今日、あなたが私に普通の事をさせてくれて、とっても嬉しかった。本当にありがとう。」彼女はニコっと笑いながら言った。彼女の笑顔は自分と同じ中学二年生とは思えない程キレイなものだった。

「いやいや、そんな事、お安い御用だよ。話し聞くくらいなら、いつでもするから、言ってよ。さて、これからどうする?」俺は聞いた。映画、カフェ、と来ると次はガストか?そんな事を考えていた。

「うん、そうね、あなたといるのは楽しいけど、実は今日、お父さんとお母さんにウソついて来ちゃったの。女友達と遊ぶって。だからもうそろそろ帰らなくっちゃ。」橘はいたずらに笑った。

「一回も逆らった事ないみたいな事言ってたのにウソついてるじゃん!朝サングラスせずに外出したのもちょっとした抵抗?」俺は聞いた。

「そうね。小さい小さい抵抗だけどね。いつもいつも公共の場に行く時に変装を義務づけられるのにはもううんざり。」彼女が笑う。

「そうか。でもパニックになっちゃうから、やっぱりサングラスくらいはしないとね。…よし、じゃあ家まで送るよ。」そう言うと彼女はまた笑った。改めて、普段は何千人、何万人に向けてやっている笑顔が今は俺にだけ向いていると思うとドキッとした。そして、いつの間にか彼女がタメ口に変わっている事に気づいて、嬉しくなった。普通の友達も悪くない、そう思いながら橘の家に向かった。


続く


December 28, 2013

【タイトル未定】 三角公園

待ち合わせ場所の三角公園。

この公園は俺達の学校から程よく近く、程よく遠く、密会するには最適の場所と近藤にいつしかか教えてもらった所だ。

「この歳で密会ってお前のプライベートどんなんだよ」と心の中ツッコンだ自分がここで待ち合わせをすることになるとは

何故か20分も予定より早く着き、ベンチに腰を落とした俺は人生初デートにしてはやけに落ち着いている。ちゃんと考えぬいたプランがあるからだ。

中学二年生男子の考えるデートといえばいたってシンプルだ。

必ずプランをするうえで忘れてはいけないことは我々はお金が無いということだ。

我々に許される上での一番の贅沢といえばガストでの夕食。エンターテイメント思考でいけばカラオケ、もしくは映画を観ること。

この選択肢の中で今回のシチュエーションを考慮するとやはり映画が有力だ。何故かと言うと映画とは盛り上がらない日の究極の逃げ道だからだ

デート中に盛り上がらなければ映画にシフトチェンジをする。その事によってまず、2時間の休息と娯楽が待ち構えている。そしてその日の映画の完成度の高さでその日が楽しかった一日になる。そして映画の凄いところはつまらない映画というのも観終わった後に文句を含む修正点を話していると意外になぜか盛り上がる。

「映画でも観に行こうか」という気軽なリードの姿勢。


映画後のディナー時を想定した話題作りの確保。

攻守共にバランスのとれたデートを成功させるためのチケットみたいなようなものだ。学生割引を使うと1000円程度だし、展開の予想できない橘 凛との初デートにはもってこいだ。

何よりも決め手になったのはデス・ノートの実写版が今日から銀幕に現れるという事だ。そして彼女の芸能プロフィールには好きなモノは漫画と書いてある。そんな彼女がデスノートを見落としている事は絶対にないという俺の推測だ。デート相手の情報がネット上で見つかるなんて不思議だなーと思いながらも現代のテクノロジーにまたも助けられた。

普通の人がどう過ごすのかが知りたいという注文付きなら今回のデートの出だしは映画で決まりだ。

そんな事を考えていると待ち合わせ10分前には橘 凛が現れた。

「ごめんなさい。お待たせしたら悪いから早めに家を出たつもりだったんですけど、待たせちゃいましたね。」橘 凛は真っ白のワンピースの上に淡い青のジージャンを着ていた。春にしては少し丈の短いワンピースも白と橘 凛の淡さでお上品に仕上がっている。ここはさせがに芸能人。他のクラスの女子たちとは一線をおいている。

俺は中2ぐらいの女子が小学生みたいな私服から大人っぽくなろうとただただスカートなどの丈を短くするという行為がすごく嫌いだ。お母さんに買ってもらったと言わんばかりのTシャツにそのショートパンツは無いだろうとと蛹から抜けだそうと必死感のあった中1の石川を見るたびに俺は思った。もちろん本人にはそんな事は言えないが。

「大丈夫だよ。僕もさっき着いたばっかだから。」そう言いベンチから腰を上げた。こうして同じ目線になってみると普段の制服姿とは一味違う彼女はやはりかわいい。

「っていうか、そんなに普通で大丈夫なの?芸能人ってみんなカツラにサングラスだと思ってた。」そう聞くと橘 凛は少し笑った。

「そうしたら私は毎朝校門で止められて、生徒指導室行きですね。」

言われてみればそうか。それに普通の人はどういう風に過ごすか知りたいって言ってたやつがカツラにサングラスってちょっと違うもんな。

「またですね。」彼女が言った。

「いっつも不思議な表情で何か考えてますよね?」

確かに俺は頭で10考えたうちの2ぐらいしか口に出さない人間だ。でもメアドといい学校初日での事件といいお前に毎回ツッコミ入れてたらさすがに疲れるだろ。あ、また頭で考えてる・・・。

「また!変な人ですね。本当に!」そういい彼女は少しスネた。

「ごめんごめん。普段は近藤がずっと喋ってるから俺あんまり考えてること口に出さないのが癖になっちゃって。」

「思ってることをちゃんと言わないとロボットになってしまいますよ。」そう言った彼女の顔を見なくてもその言葉は彼女自身に対して言っているんだと悟るのは簡単だった。

「よーし、今日は楽しむぞーっ!!」考える前に自然とそう口に出た。

こうして僕達のデートが始まった。

つづく

December 21, 2013

【タイトル未定】不用意な冗談、急展開

「えー。教えねーよ。」俺はおどけてみせた。

「2年生早々に芸能人と二人で隠し事とはやるなー!こいつー!」近藤はテンション高めだ。

「告白だよ」冗談っぽく笑って言ってみせた。この手の冗談はお手のものだ。

「え、告…え?」近藤は予想より驚いている。そして俺は異変に気づいた。周りから声がしない。

見渡すとクラスにいるほぼ全員がこっちを見ていた。恐らく俺の言った事も聞こえていたのだろう。いや、”注目して聞いていた”と言った方が正しいかも知れない。

「ちょ、お前それって本当なのか?」近藤が聞く。

「ちょ…ちょっと来い!」俺は近藤を引っ張って教室の外に走った。まさか1時間前に腕を引っ張られ、そして次は俺が腕を引っ張って走る事になるとは。腕はそんなに引っ張ったり引っ張られるものではないのに、今日1日で1年分の腕引っぱりを使ったかもしれない。…ってそんな事はどうでもいい。



「もうこの辺りでいいだろ。説明してくれよ。」教室から少し離れた渡り廊下で近藤は言った。

「普通に「友達になってください」だと。迂闊だった。芸能人と二人で教室の外に出て、帰って来て、そいつの話しを聞こうとする、そんな事は自然な事だ。なんで俺はそんな事も…」やはり芸能人との不慣れなシチュエーションの後でおかしくなっていたのか。

「はぁ!?橘凛が「友達になってください」って!?お前に!?言ったのか!?何で!?何でお前!?」近藤は”理解不能”と言った感じだったが、そんなに驚くなんて俺に失礼だぞ、近藤。一応俺はお前の目の前にいるぞ。

「いや、何かずっと芸能界にいたからか、”普通の友達”ってのがいないらしくてさ。みんな”芸能人として”としかあいつの事を見てなかったそうだ。まぁそりゃそうだよな。それで彼女は『次に教室に入って来た人がイケメンだったら声をかけて友達になってもらおう』って決めてたらしい。」俺は正直に説明した。少しフィクションも入っているが。

「イケメンの件は?」鋭い近藤。

「…うそだ。」

「おい、待てよ。と言う事は俺があのとき少しでも早く橘を見ようと教室に行かずに蒼木や石川やお前と一緒にいれば橘は俺に声をかけてたかもしれないって事かよ!!」近藤は後悔をしている。

「確かにそうだな。その可能性もあったな。」そう考えたら運命とは不思議なものだ。

「絶対俺に声をかけてたはずだ。俺の方がイケメンだしな。」ドヤ顔をする近藤。

「だからイケメンの件はうそだって。あと俺の方がイケメンだ…ってんな事はどーだっていいんだよ!どうするんだよ、教室では…」
「どうでもよくない!俺が最初に橘凛と友達になれていたのに俺は…俺は…」近藤が俺を遮って、また後悔している。

「時間がないんだよ、一緒に考えてくれよ。」俺は焦っていた。

「知らねーよてめーの事なんてよー。俺の橘凛を…」近藤はぶつぶつ不満を言っている。

「放課後あずきバー奢るよ。」俺は最後の手段に出た。

「よし、どう解決する?」近藤の、あずきバーを出した時の変わり身の早さはさすがだ。こいつはあずきバーのためならある程度の事はしてくれる。(ちなみに、本当にどうでもいいが近藤にはあずきバーを買って1分以内に食べるという特技がある。)

「状況を整理しよう。俺が「告白された」って言ったのはみんな聞いてたか?」まずはそこだ。あそこで俺をみんなが見ていたのは勘違いだったかもしれない、なんて淡い期待を抱きながら。

「多分あの感じだと教室の全員が聞こえただろうな。いや、”聞いてた”と言うべきか。だから全員、橘凛がお前に告白したと思ってる。何がマズいかって、それによって男子連中はほぼ全員お前の敵、女子だって『せっかく女の子が勇気を持って告白したのにそれをぺらぺら喋る最低な男』として見ているだろうな。そして一番の問題は橘だ。お前に引っ張られつつ、気になって彼女の方を見たんだけどよ、すごい顔してたぞ。お前、殺されるかもな。ははは。」近藤の分析を聞いて、俺は胃が痛くなった。自分が想像していたより、もっと酷いところに俺は追い込まれていた。
クラス替えしたばかりで多くの人が俺の事を知らない。冗談かどうかなんて判断出来ないだろう。全てが裏目に出ている気がした。

「しかし、だ。お前は『告白された』と言ったか?」近藤が何かを思いついたらしい。こういうときにこいつは本当に頼りになる。

「言わなかったか?」俺は聞いた。

「いや、お前は言ってない。「告白だよ」とだけ言った。と、言う事はだ、何も告白したのは橘凛からとは限らない。お前から告白した可能性だってあるわけだ。いや、むしろモテない惨めなオタクの童貞がいきなり芸能人を目の前にして告白した、と言う方がよほど可能性が高いと思うぞ。そこを利用すれば女子からの評価は戻せないが男子連中は引き止められる。女子なんて変わりやすい事この上ない、いつでも取り戻せる。大切なのは男共だ。」途中気になるところがあったが、近藤はいいところに着地しようとしている。

「問題は…」俺が促す。

「そう、問題は橘凛がお前を呼んだ理由…」近藤もそこを考えている。
そして近藤は何かを考えつき、俺に耳打ちをして、肩をぽんぽんと叩いた。

「俺が徹底的に落ちるしかない、か。」俺は全てを受け入れて、覚悟を決めて教室に戻った。




教室に戻ると全員が一斉にこっちを見た。もちろん橘凛もいるが、俺はそっちを見る勇気はなかった。ただ、出来るだけ見ないようにしたが、そっち方面から来る悪寒はなんとなく感じられた。


「橘さん!コイツ、謝りたいんだって!」近藤が大袈裟なほど大きい声で言った。全員がこっちを見ていると言うのに物怖じしない辺りはさすがだ。橘さんは…確かにすごい顔をしている。そんな事は気にせず近藤が続ける。

「ごめんね、こいつが橘さんをずーっと変な感じで見つめてて嫌な思いをさせたんだって?橘さんも勇気を持ってそれを止めるように言ったのに気にせずに告白までして!」かなり強引だが、これで誤解は解けるはずだ。

「でも、コイツの事を許してやって欲しいんだ!ずっと惨めな学校生活を送って、いきなり目の前にこんな素敵な人が現れたんだ!そうしたくなる気持ちも分かってやってくれ!哀れなこいつに慈悲の心を!」おい、近藤、助けてくれるのはいいがさっきから言い過ぎじゃあないか?

「いいの、もう。」橘凛が口を開く。

「変な目で見られるのは少なくありませんし、少しびっくりしたけど告白もよくされます。一回も了承した事はありませんけど。」橘の言葉を受け、クラスの男子の何人かが残念そうな顔をしている。

「ごめんね、橘さん。」俺も一応謝る。

「よし、席につけー!」そのタイミングで次の授業の先生の中村が教室に入って来た。席につく皆。

「はい、日直は?号令をかけて。」中村は真面目なおじいちゃん先生だ。

「起立、気をつけー…」


色々あったが何とか無事、授業に入った。橘と俺の問題はひとまずは落ち着いただろう。と言っても俺はもう橘との何かしらは期待出来ない。まぁ、最初から期待などしていなかったが。……いや、正直言うと少しは、ほんの少しは期待していた。しかし今となってはもう遅い。何より、男子の評価を下げる事は阻止したが、女子からは”ただの気持ち悪いやつ”としての評価が確定してしまっていた。その日の授業は一切頭に入らなかった。みんなの視線も怖かった。

放課後掃除していると、ニ人の男子が話しかけて来た。

「お前見かけによらず、すげーんだな!初日から橘凛に告白するなんてよ!」こいつは確か、木村だ。

「そ、そうかな。そんな事ないよ。」俺は答える。

「いーや、俺には分かるね。お前はすげーやつだって、俺には分かる。まぁ以後よろしくな!」木村はスラッとしていて、黒髪短髪の体育会系のテンションの高いお調子者と言った感じだ。野球部所属らしい。でも彼が話しかけて来てくれて安心した。男子は近藤の話しを信じた、と言う事だ。

「ねぇ。」木村が向こうに行くと、そこにいたもう一人が話しかけて来た。

「君は”してやったり”って思ってるかも知れないけどさ、僕はあんなものには騙されない。橘凛が君を呼んだのには別の理由があるはずだ。君はそれを隠している…女子からの評価を下げてまで。気になるね。今は聞かないであげるけどね。」そう言ってくるのは宮本だ。不気味だ。彼は見た目も背が低く、髪は短いおかっぱ気味、眼鏡をかけていつも本を読んでいる。

「い、いや、僕は何も隠していないよ。近藤が言ったのが真実さ。」俺は言った。

「だからあんなものには騙されないって言ったろ?どうせあれは近藤のアイデアだろう。まぁさっきも言ったように、今は聞かない。じゃあ、またそれを聞けるときを楽しみにしているさ。」宮本はそう言うと行ってしまった。なかなか厄介なのに目を付けられてしまったかもしれない。



そして掃除が終わり、俺は下駄箱に向かった。上靴を脱ぎ、自分の靴を出そうとすると、紙が入っていた。予想外の出来事に、ドキッとした。急いで周りを見渡すが誰もいない。中を確認すると、メールアドレスが書いてあった。このアドレスは…。でも何故?そんな事はまぁいい。確認するために早く家に帰ってメールを送ろうと急いでいると、校門のところに蒼木と石川と近藤がいた。

「あれ、二人とも部活は?」俺は聞いた。

「部活は初日だから顧問の話しで終わったんだよ。」蒼木さんは教えてくれた。次に石川が口を開く。

「それよりあんた、近藤から話しは聞いたわよ。あんたはそこまでキモいやつじゃないから何かおかしいとは思ってたけど、クラスの女子はそうは思ってないわよ。みんなあんたの事を橘凛をジロジロ嫌らしい目で…」
「やめてくれよ!もう忘れたいんだ!」石川が喋っていた途中だったがもうあの場面を振り返るのはたくさんだった。あんなの一生にも一回だけで充分だ。

その後も、今日の事を色々話しながら帰り道を帰ったが、みんな俺の事を信じてくれて、心配してくれていた。
しかし本当に申し訳ないが、俺の頭には全然入って来なかった。俺は靴に入っていたアドレスだけが気になっていた。きっと帰り道の俺は上の空だったに違いない。必死にそれを隠しながら話しを合わせた。俺の家の前につくと近藤が言った。

「まぁ、なんだ。まだ2年生は始まったばっかだ。人の評価なんていくらでも取り戻せる。死ぬなよ。」あずきバーを口にくわえている近藤は少し上機嫌だ。(今日はいつもの”1分チャレンジ”はしないみたいだ)

「ありがとう、みんな。じゃあ、また明日。」そう言って俺はすぐ自分の部屋に向かった。急いでメールを打った。

「俺です。僕の靴にアドレスが入っていました。どなたですか?」

「橘凛です。」返信には思った通りの名前が書いてある。彼女のアドレスが r.tachibana0503@…となっているので一目瞭然だ。5/3は、ネットで調べたところ、彼女の誕生日らしい。

「一応聞いたけど、やっぱり橘さんだよね…。一応有名人なんだし、アドレスを変えた方がいいと思うよ(笑) 橘さんから二度と絡みはないと思ってたからビックリしました。何ですか?」俺は聞いた。

「アドレスに何か問題が? 今日の事はとても驚きました。まさか初日からあんな事に巻き込まれるとは。」彼女からの返事は少し刺刺しかった。

「僕の冗談があんな事になるとは、ごめんね。軽卒だったよ。」俺は謝った。

「言葉だけで謝ってもらっても何ともなりません。代わりと言ってはなんですが、この土曜日、丁度仕事が休みになったの。普通の人はどういう風に過ごすのか、とても興味があります。どこかに連れて行ってもらえませんか?」橘凛が俺に送って来たのはかなり意外な言葉だった。橘凛と土曜日にどこかへ?しかもこれは…多分二人きり?いやいや、落ち着け。とりあえず俺はこの土曜日に向けて中学生二年生男子が考えうる中で一番のプランを立てる事にした。そして土曜日はあっという間にやってきた。


続く。



December 14, 2013

【タイトル未定】 動き出した歯車

「え、話って何?」ドキドキを通り越したのか、意外に冷静でいられる自分に少しびっくりしながら答える。

「あの・・・。」橘凛が何かを言おうとするが刺々しい周囲の視線が彼女の口を塞いだ。

その時だ。橘凛がゆっくりと近づいてきたかと思うと途端に僕の腕を握り教室の外に走りだした。ある程度走ると息を切らせながら周りを見渡し、空き教室を見つめていた。

「ここ、誰も居ないわよね?」そう聞かれ首を横に振る俺を見て未だに俺の腕を掴んだままの彼女が空き部屋に入る。

「いつまで腕掴んでるの?」決して嫌だったわけではない。美人な芸能人に腕を掴まれるという非日常的な心地の良い事故だ。

「あ、ごめんなさい。」視線から逃れるのに必死だったのか、彼女は今初めて自分が俺の腕を掴んでいるのに気づいたようだった。少し顔を赤くさせたと同時に掴んでいる腕を慌てて放し、彼女はどこか恥ずかしそうに再び口を開いた。

「あの、私今から変なこと言うかもしれないけど引かないでね。」うつむきながら彼女は言った。

「え、う、うん。」ゴクリという自分のツバをのみ込む音がやけに大きく聞こえた。目の前にいる美少女と二人っきりで個室にいる。そこに「変なことを言うかもしれない」という言葉は思春期の俺には刺激的すぎた。嫌、きっとこれはそれどころの騒ぎじゃない。

「あ、あの。」

橘が恥ずかしそうにちらっと目を見てきて再び口をひらいた。

「友だちになってください。」彼女が頭を軽く下げる。


「え?」開きかけていたファンタジーの扉が燃え尽き消えた。

「何それ?別にいいけど、なんで俺?」この思春期の男を手の平でもてあそぶかのような彼女に言動に彼女を始めてみた時に感じた緊張感は消えていた。


「あの、私自分で言うのもあれだけど一応芸能人だから、他の人たちとどう接するべきなのかよくわからないの。人じゃなくって商品として自分を 扱ってきたから今さら学校って言われたらすごいドキドキしちゃって、でも前からマネージャー達や仕事仲間以外の普通の友達っていうのが欲しくって。」

「でもきっとこんな私に声かけてくるのって芸能人としての橘 凛と友達になりたいだけで、本当の私とは別に。。だから次教室に入ってきた人にこっちから声をかけてみようって思ったけどいざとなるとなんか恥ずかしくって変に大声出しちゃって・・・。」テレビで見るときはいつも元気な子が自分を前に緊張してオドオドしているの見て俺はなんかおかしくなってきた。

「橘さん、意外と変な人なんですね。」自然と笑顔になっている自分。

芸能人って聞くと話すだけでも肩に力が入った自分がすこし可愛く思えるぐらいイメージと違う橘凛に合ったばかりなのに不思議な親近感が湧いた。

その時チャイムが鳴り響き互いが目を合わせ同時に口を開いた。

「あ、教室に戻らないと!」

教室に向かって走る俺と橘凛。

「あの、さっきあの教室で話した事なんだか恥ずかしいから誰にも言わないでね。」彼女がそうお願いする理由はなんとなく分かる。中2にもなってなって「友達になってください」はちょっとキツイ。もし、その人が売れっ子芸能人なら尚更だ。

「だったらなんたみんなにいうの?」息を荒らげて聞き返す。

「任せるわ!」その言葉とともに橘凛が教室のドアを開くと再び刺刺しい視線に刺された。


「あーら、初日から仲良く一緒に遅れて到着なんて、二人共なかなかやるじゃん。」

村上。俺達の今年の担任。本当はもう32歳なんだけど気持ち26歳ぐらいに見える村上は締めるところは締める先生だが普段は少しフワッとしてて先生というよりはみんなのお兄ちゃんみたいな存在だ。そんな村上は何故か女子生徒からの人気が凄い。


「あれ、橘さんは転入生なんでみんなで仲良くね~なんて言おうと思ってたんだけど、先生の無駄な心配だったみたいだねー。」フワッと始め。

「二人で仲良くするのはご自由にだけど、時間はきちんと守るように。」最後は締める。

村上は相変わらずそんな感じだ。

出席を取り終わり次の授業までの休憩時間になると、近藤がニヤニヤしながら近づいてきた。

「で、一体橘凛と二人でなにしてたの?」

なんにも考えていなかった俺は思いつきでその後を大きく左右する発言をしてしまった。

続く

December 8, 2013

【タイトル未定】 入学式、出会い



”学校生活と言えば薔薇色、薔薇色と言えば学校生活。”

そう言われるのが当たり前なくらい、学校生活はいつも薔薇色な扱いを受けている。

しかし、誰もが薔薇色の学校生活を送れるわけではないのも事実だ。勉学、スポーツ、色恋沙汰…それら薔薇色とは全く無縁な学校生活を送る学生もたくさんいるのではないか?

いわゆる薔薇色ではなく、”ごく普通の学校生活”を送る学生だって、たくさんいるのではないか?

かく言う俺も普通の一人だった。薔薇色などとはほど遠く、普通に勉強して、普通にスポーツして、普通に恋をして…

いや、”普通だった”と思っていたが、22歳になって何の面白みもない、毎日が同じ事の繰り返しの社会人になってみて思い返すとあの時は気づかなかっただけで、あれは薔薇色だったのかも知れない。

孔子の言葉に『全てのものは美しい。ただ全員にそれが見えるわけではないが』というものがある。その通り、あの頃の俺には美しい薔薇色が見えてなかっただけなのかも。

まぁいい、当時を振り返ってみるから薔薇色かどうかは適当にそっちで判断してもらおう。
時間は8年前、14歳、中学校2年生まで遡る。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「お、クラス分け見た?」中学2年生になった初日の4月5日にグラウンドに向かう途中の俺に、そう話しかけて来たのは近藤(こんどう)だ。こいつは小学校からの付き合いで、ちなみに1年生のときも同じクラスだった。俺たちの学校はまぁまぁ人が多く、5クラスあった。それなのにこいつと同じクラスだったのは”腐れ縁”というものだろう。

「いや、まだ見てないよ。今から行くところ。」俺たちの学校では、クラス分けは入学式の日にグラウンドに掲示されるのが決まりになっている。

「すげー面白い事になってるよ!教えてあげないけど!」見慣れたその顔は何か不気味な雰囲気を醸し出していた。その顔をするときはあんまりいい事じゃないんだよなぁ。そう思いながらグラウンドに行くと掲示されたクラス分けの周りにはまだ多くの人が残っていた。

俺の名字を探したかったんだが、この人だかりでは見えない。このときばかりは出席番号が早い蒼木(あおき)さんや石川(いしかわ)さんなどが羨ましい。なぜなら名前が上の方にあるから、この人ごみの後ろからでも簡単に自分の名前を発見出来るからだ。

蒼木さんは去年同じクラスでバスケットボールをやっている体育会系の女の子だ。クラスの代議員で世話好き、文字通りクラスのリーダー的存在だ。

石川さん、性別を分かりやすくするために”さん”付けで読んでいるが、本来は石川と呼んでいる。こいつとは幼稚園からの幼なじみで去年も同じクラスだった、腐れ縁パート2だ。こいつもバスケをやっていて、何故か男子連中からは人気なんだが全く持って理由が分からない。いつもぐちぐち俺に嫌みをたれてて、こんなやつのどこがいいんだか。

その蒼木さんと石川は同じバスケ部で仲がいい。今日もあそこの前の方に一緒にいる。
いや、待てよ。一緒にいるって言うのは分かるが、あいつらは何故まだあそこにいるんだろうか?自分たちの名前を確認したなら近藤のようにクラスに戻ればいいのに。
そう思っていると蒼木さんが俺を見つけて手招きをしている。横で石川は嫌そうな顔をしているが、俺から来た訳じゃないのに全く理不尽だ。

「おはよう。すごい事になっちゃったね。」蒼木さんが言う。

「何の話し?」すかさず聞き返す。

「はぁ。あんたオタクのくせにそんな事も知らないのね。」石川は俺を見下しているが、クラス分けなどお前だって見るまでは分からなかっただろう。第一、俺はオタクではない。まぁいい、謎を解くのが先だ。

「どういう事か教えてくれるかな?」こういうときは蒼木さんに聞けばいい。

「ほら、あそこ。」蒼木さんはクラスの真ん中辺りを指差す。

クラス5
……
……
”橘 凛”
……
……

この名前には見覚えがある。同姓同名の今イチオシのテレビによく出ている人気芸能人がいるからだ。

「巷で話題のあの橘凛(たちばな りん)がうちの学校に入ったんだってさ。なんだか理事長と橘凛のお父さんが知り合いらしくて、社会勉強のためにうちの中学に入れたんだとか…。」蒼木さんは丁寧に説明してくれた。なんと本人さんだとは。人だかりの原因はこれか。

「何でも小さい頃から何でも出来てたらしくさ、容姿端麗、成績優秀、おまけに芸能人ときてる。同じ中学になったからにはお近づきになりたいよな~。」後ろの方で男子生徒が話しているのが聞こえた。なるほど、彼女を狙おうとする男子生徒はかなり多いだろう。

結局クラス分けを確認すると俺と蒼木さん、石川、近藤はみんな同じクラス5になっていた。仲のいい友達が3人もいるというのはやりやすい。そしてさっき言った通り橘凛も俺たちと同じクラス5だ。

「本当に知らなかったの?何かネット掲示板とかで結構前から話題になってたんだよ?”橘凛がうちの学校に来る”とかって」石川が言う。

「へぇ~あの橘凛がねぇ…。というか、お前がネット掲示板なんて見てるなんて知らなかったよ。」

「それってどういう…」石川が反論し始めたところで蒼木さんが止める。

「まぁまぁまぁ、お二人さん、時間も時間な事だし、教室に行って待ってようよ。」さすがはクラスのまとめ役。人をまとめる術を知っている。

そして俺たちは教室に向かった。すると教室の真ん中の方に、一人別格のオーラを出しながら座っている女の子がいた。そう、こいつこそ話題の中心、橘凛だ。なるほど名前にある通り”凛”としている。一人別世界から来た人間のようだ。

「遅かったね。」近藤が自慢げに言う。

「くそ~、こっちだったか~。」蒼木さんと石川は悔しそうだ。何でも、三人は一緒に掲示板を見ていて橘の名前を見つけて、近藤は教室に来ると予測し、蒼木さんと石川は橘がクラスの掲示板を見に来ると予測して二手に別れていたらしい。なるほど、自分の名前を見つけやすいはずの蒼木さんと石川があそこに残っていたのはそれでか。

「橘凛ほどの人なら、わざわざ人ごみに紛れて自分の名前を探さなくてもいいように既に学園長か誰かから知らされてるだろうからダイレクトに教室に来るって言う予測をするのは難しい事じゃなかったね。」近藤は結構誇らしげだ。

「今回はあんたの勝ちにしといてあげるわ。」石川は近藤相手にはやけに素直だ。最も、これを素直と言っていいかどうか分からないが、今のがもし俺相手だと罵詈雑言の数々を浴びせていただろう。

「あの、ちょっといいかしら。」教室の空気が一気に凍り付く。全員が一斉に橘の方を見て、次に俺の方を見る。橘凛は俺の方を見ている。声を発したのは他の誰でもない橘凛その人だ。

「えっ。あ、あの…俺?」どもりながらもなんとか返事をする。

「そうです。少し話しがあるの。」彼女の瞳はどこまでも透き通っていて俺の全てを見透かされるようだった。


続く