「申し出はとても嬉しいのですが、 いつも4人で会うところに私が急に入って大丈夫でしょうか?」せっかくの休みなのだから近藤、蒼木さん、石川、俺のいつもの4人+橘凛でどこかへ行こうと誘った俺に、橘は喜びながらも少し遠慮して見せた。
俺は何を隠そう『友達の友達は友達』論者である。ここで明確にしておきたいのは、この理論はよく『似ている人に似ている人は似ている』理論と同じにされる事があるが、それは全くナンセンスだと言う事だ。例えば、佐村河内さんとおすぎは似ている。佐村河内さんはカンニングの竹山とも似ている。でもだからと言って、おすぎとカンニング竹山は似ているわけではない!…一体何の話しなんだ。
とりあえず、俺は橘凛が俺たち4人のグループに入ろうが何ら問題は無いと言う確信があった。
「あいつらなら大丈夫だって。橘の事も結構話してるしさ、今までずっと友達だったみたいにすぐ溶け込めると思うよ!」橘を安心させるためとかではなく、これは本心から出た言葉だった。
「それなら是非お願いします。一気に”普通の”友達が3人も増えるなんて、嬉しいな。」メールをしている分には本当に普通の女の子の橘の「普通の友達」と言う言葉が彼女が芸能人である事を急に思い出させる。
そうと決まれば、3人に週末の事をメールしないとな。と思ったが、夜も遅いし、どうせ明日学校で会うし、急ぐ必要はない。そう思い、俺はベッドに入った。
今日の学校がいつにも増して騒がしいのは久しぶりに橘凛が学校に来たおかげだろう。
休憩時間は彼女を一目でも見ようとする他のクラスや学年からの人で、うちの教室の前は人だかりが出来る。朝、教室に入るのに一苦労した事で、橘凛が学校にいる事のイレギュラーさを実感出来たのには思わず近藤と苦笑いをした。
彼女を囲むロイヤル・ナイツは相変わらずで、安心する。護衛隊長の佐々木は、活き活きしている。人の上ではなく、人の下で栄えるタイプと言うのは、少ないようで意外にたくさんいる。代表的な例がスネオだろう。彼はジャイアンを失えば、先週の佐々木花音になってしまうに違いない。その点トップに立つ器がありながら二番手を見事に全うし続けた新撰組の土方歳三は立派だ、などと意味の分からない論理を自分の中で組み立ては一人で笑う。これはもう俺のクセになっていた。橘凛に映画デートのとき「一人で考えて笑うのは禁止」などと言われたように、友達になって間もない頃は指摘される事もあるのだが、石川や蒼木さん、近藤はもう気にしない。それどころか近藤と俺は頭の中でこの創造を分かり合っている事が多い。これほどに、最早気持ち悪いくらいに価値観を共有出来る友達がいると言うのは幸せな事だと思う。
だからこそ、反対されたのにはかなり驚いた。
「ロイヤル・ナイツとか、もっと言えばマスコミとかさ、前の映画デートの時とは比べ物にならないくらい橘は人気なんだ。ちょっと今週は止めとこうぜ。」カレーパンを食べながら、近藤は続ける。
「俺は橘凛を加える事に反対しているわけじゃあない事は分かって欲しい。ただ、今はタイミングが良くないんじゃあないかって言ってるだけなんだ。」近藤は真っ直ぐこちらを見つめる。
俺は近藤の言っている事が分からないわけじゃあなかった。もし誰かに見られたら…。決して少なくない数のロイヤル・ナイツ女子を敵に回してしまうのは、俺や近藤はいいにしても石川や蒼木さんからしたら学園生活を大変にしてしまうだろう。何よりマスコミに撮られて、家まで着いて来られたら家族にまで迷惑がかかる。マスコミはそれくらいはしそうだから怖い。ただ、それにしても考え過ぎな気がしてならなかった。いつもの近藤なら、ましてや「友達になって下さい」とたまたま俺が言われた事にあれだけ嫉妬していた近藤が橘と一緒に遊ぶのを拒むなんて何かが…。しかし、近藤は妙に勘がよかった。しかも主に悪い予感の時はよく当たった。なので俺は自分の中の疑問になりかけた何かを綺麗に消し、近藤の忠告に従う事にした。
休憩時間に俺は蒼木さんに呼び出された。蒼木さんとは1年からの付き合いだが、こうして二人で話すのは案外初めてかもしれない。
「こうして二人で話すって言うのは初めてかもなぁ。1年からずっと一緒なのに…」そう言う俺を尻目に蒼木さんは言った。
「まゆがね、何か変なの。佐藤君何か知らないかな、と思って。」蒼木さんが言って来たのは意外な事だった。心当たりなど全くなかった。
「石川が変なのはいつもの事じゃない?俺は何も知らないよ。」あまり雰囲気を重くしないように冗談を交えて答える。
「うーん、そっか。気のせいだよね。ごめんごめん。確かにまゆは変わってるところあるしね!」蒼木さんが笑う。納得したようだ。
その日は、変わった事はそれくらいで、後は普通の学校と同じだった。石川も、いつもと変わった様子があるとは思わなかった。
梅雨明けが発表されてから、雨が降る事はほぼ無くなった。そんな外を見ながら照りつける太陽に暑い夏の到来を感じると、鬱陶しかったはずの梅雨の雨が少しだけ恋しくなる自分がいた。
No comments:
Post a Comment