January 18, 2014

【Cherry】久々の4人


俺たちの住んでいる街では年に三つ、大きなお祭りがある。
えびす祭り、稲荷祭り、花まつりだ。

とりわけ花まつりはこの三つの中でも一番大きく、毎年5月3、4、5日に行われて、100万人以上を動員するこの町一番のイベントだ。
大通りがほぼ1日歩行者天国となり、パレードが行われ、大小様々なステージが設けられ、歩道は多種多様な出店で賑わう。この頃は”はしまき”が100円で買えたというのに今や300円、500円だ。そう言えばずっとこの土地にいると言うのに花まつりには長らく行っていない気がする…ってそれはまぁいい。
この年は1日目に橘凛がメインステージでトークイベントをすると言う事で、みんなで見に行こうと言う話しになった。みんなと言っても近藤、石川、蒼木、俺の四人だ。

「何か、去年まではみんなでよくどっかに行ってたのに、こう久しぶりだと変な感じがするな。」懐かしそうに近藤が言った。確かに、言われてみるとこの4人でどこかに行くのは2年生になってからは初めてだ。

「クラスの女の子の目があるからね~。橘さんをジロジロ見て告白までした変態とどこかに行くなんて私たちまで橘さんの友達に敵視されちゃうわ。」石川がこちらを見ながら話す。

「友達ってのは同等の関係にこそ使える言葉だ。あれはロイヤル・ナイツ。友達じゃない。」近藤が正すが、蒼木さんがすぐさま反論する。

「近藤くん、ロイヤル・ナイツなんて言い方、良くないと思う。彼女たちは同じクラスの友達じゃない。」さすがの”聖人”蒼木さん、彼女の前では人の悪口は許されない。

「何!?機関は既に彼女まで…。なんだと!?俺にやれと言うのか?いや、仕方ない事だ、それがシュタインズゲートの選択だと言うんならな。エル・プサイ・コングルゥ。」どこかに電話をかける仕草をして一連の流れをやりきる近藤。ここ最近はずっとこんな感じだ。他人の目を全く気にしないところはコイツの強みであり、弱みでもある。

「最近それすっごいやってるけど、なんなの…?」不思議そうに石川が聞く。無理もない。元ネタを知っている俺でさえ、戸惑っているのだから。

「石川よ、そんなに知りたいか。しかし貴様をこの機関との聖戦(ラグナロク)に巻き込むわけにはいかんのだ、すまん…。」神妙な近藤。俺は思わず吹き出してしまった。
「イラッ☆」と石川が言ったような気がした。いや、顔が言っていた。

「ま、まぁさ。せっかく4人の予定が揃ったんだから楽しもうよ。」俺が場を仕切り直す。仕切るのは本当なら近藤の役目なのだが、俺たちの知っている近藤はどこかに行ってしまったので仕方ない。

「あんたは楽しいでしょうね~。何しろあなたの大好きな大好きな橘凛様を見に行くんですから。」石川が皮肉たっぷりと言った感じで俺に言う。いつもぐちぐち揚げ足を取ったり文句を言ってくる石川だが今日はやたらとしつこい。

「もうその絡みはいいよ。真実は近藤から聞いたんだろ?お前はいつからロイヤルナイツになったんだ?」さすがの俺もやり返す。

「まぁまぁ。こんな感じだけど、まゆ(石川の事。石川真由美)すっごく心配してたんだから。」蒼木さんがそういうと、石川は焦って

「ぜ、全然心配なんてしてないわよ!」と急いで訂正した。近藤はそれを見てニヤニヤしている。

「まゆ、女の子たちが佐藤君(俺。佐藤ゆうき)の事悪く言う度に否定してたじゃない。」蒼木さんはクラスのリーダー的存在で、人をまとめるのが上手だが、たまに抜けているところがある。彼女が人格者故に誰も突っ込めないが…。ただ蒼木さん、俺が言うのもなんだけど、それは俺には言わない方が石川のために良いんじゃないか?

「ち、違うわよ。そんな変態が幼なじみだってなったら嫌だから、ゆうきはそこまで変態じゃないって言うのをちょっと説明しただけよ。」石川がかなり慌てた様子で説明する。

「でもまゆ、あの体育のときだって」
「ストップストップ!もうその話しは終わり、ね?茜。(蒼木さん。蒼木茜(あかね))」蒼木さんが更なる暴露しようとしたところで石川のストップが入る。まだまだ聞きたかったが、だいたい予想出来たのでよしとしよう。蒼木さんにはお礼に今度リプトンを奢るとするか。そんな事を考えていた。そして、石川も口では悪く言っていても俺の味方でいてくれている事に安心した。石川にもリプトンだな。いや、でもコイツは口では酷い事を言ってくるからあずきバーにしてやる。一般人には硬すぎるので溶けるのを待つしかないが、近藤と一緒のときにそんな事をすると、近藤は説教を始めてしまう。女子にとってはあの殺人的な硬さのあずきバーは拷問のようだろう。
小学校の頃、近藤に好意があった石川は近藤に認められようと何回もあずきバーにチャレンジしては、諦めて泣いたりしていた。あずきバーを買って渡して、苦しんでいる石川を想像すると、自然に笑いが出た。

「どうした、急に。何笑ってんだ?まさかお前まで既に機関の…」
「どうせまた愛しの橘凛様でしょ!」石川が近藤を遮った。さっきまでの憎まれ口も、今はもうなんともない。

街ではステージの設置が着々と進み、綺麗に咲いた花々の春らしい匂いから、花まつりはすぐそこまで来ている事を感じ取れた。


続く


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